危機に瀕するウクライナ、ロシア 日本が保護すべき難民は?

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そのようなウクライナからの紛争避難民に対して、隣国であるポーランドなどのEU諸国では、既にいくつかの特別の措置を整備している。

まず、2011年に採択された「資格指令」と呼ばれるEU法。これにより、国際的武力紛争下で無差別暴力の脅威を逃れた者は「補完的保護の対象者」として、難民に準ずるさまざまな保護と支援を受けられる。日本の入管法にはまだない法的措置だ。

次に、ウクライナ人は既に隣国ポーランドにビザ無しで入国し、90日間は滞在できる。その間に上記のEU法に定める補完的保護に基づいて、ポーランド国内法で整備されている「特別滞在許可」を得られることとなっている。

そのうえ、ポーランドには紛争前の数字で150万人のウクライナ(系)住人がおり、民間からの支援も期待できるのだ。

ウクライナ
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さらに、今回のウクライナ情勢を受けてEUは、初の「一時的保護指令」の発動まで検討し始めた。

これが発動されるのは、今回のように大量の避難民が短期間に流入する時。特定の国や地域(今回の場合はウクライナ)出身者に、3年間の滞在資格を比較的簡素な手続きで集団発給するという措置である。

2001年に採択されて以来、(シリア危機においてさえ)一度も発動されたことがないため、具体的にどのような実施となるかは今の時点では不明瞭なところもある。

しかし、本当に発動されればウクライナ人は上記の補完的保護よりさらに充実した公的支援をEU諸国内で受けられる可能性もある。

「家族滞在査証」の発給を


日本政府からも、日本にいるウクライナ人については、現在の在留資格の期限が切れた後も本国に送還することなく、資格更新または他の資格に変更するなど、柔軟な対応を行うことが発表された。

更に、国外にいるウクライナ人に対しても、事前にビザ申請することなく日本への入国を許可することまで検討しているという。もしそうなれば、昨今の対シリア人、対ミャンマー人、また後述する対アフガニスタン人などへの厳格な対処とは桁違いに寛容な入管措置が採られることとなる。

もちろん今回ロシアによる戦争犯罪の被害を受けたウクライナ人に人道的な観点から最大限の支援を差し伸べることは当然ではある。

しかし、隣国やEU枠内で日本より良い法的保護と物的支援が用意されており、また現時点での在日ウクライナ人は1800人程度という中で、わざわざ来日するウクライナ人は極少数であろう。

ウクライナは2月28日、正式にEU加盟申請をした。戦争終結後、ウクライナの「Look West」傾向はさらに強まることも予想される。

周辺国に逃れたウクライナ人で日本に親族などがいる希望者に対して「家族滞在査証」などの迅速な発給が行われれば、日本政府としてそれ以上の特別な厚遇措置を採る差し迫った要請、人道的な理由、中長期的なメリットはあまり見られない。

真に保護すべきは「反戦派ロシア人」


実は「難民」という意味でも日本の国益という意味でも、忘れ去られているグループの1つが、反戦派のロシア人である。ロシア国内では、反戦デモに参加した市民6400人がロシア当局に拘束されたという。

彼らはまさに「政治的意見に基づく本国政府からの迫害のおそれ」があるという意味で、上記で述べた難民の定義のど真ん中に当てはまる。

また日本国内で反戦デモに参加したり反プーチンの意見を表明したロシア人が、ロシア大使館などから狙われる可能性もある。彼らから日本国内で難民申請があったら、基本的に認定する方向で検討すべきだ。

加えて、脱走兵や兵役忌避者も場合によっては難民条約上の難民に該当するという判例が諸外国ではある。

現実的にロシア兵がどれほど国外脱出できるかについては疑問が残るし、日本は在外大使館(例えば在モスクワ)での難民申請を受け付けていない。

だが、もしビザ免除措置を検討するなら、そのような反戦派ロシア人こそ対象にすべきではないだろうか。それは人道的配慮のみならず、プーチンへの当てつけという外交的な意味合いも持つ。

もっと言えば、遅かれ早かれやってくるポスト・プーチン時代の強力な親日派の種をまくことにもつながる。

プーチンの暴挙により国際的に孤立させられ、多大なコストを支払うこととなる良識ある反戦派ロシア人に、この危機下で日本が率先して手を差し伸べることがもたらすメリットは大きい。
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文=橋本直子 編集=露原直人

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