「イナズマ」と形容される28歳の快足サイドアタッカーが歩んできた華やかなスポットライトとは無縁のアマチュア時代を振り返れば、敵地シドニーで3月24日に待つオーストラリア代表との次戦も否が応でも期待したくなる。
シャイなイナズマ
テレビ朝日系の情報番組で「イナズマ」形容は初登場した。「響きがいいですね」と伊東が好印象を寄せたそれは、直後の日本代表戦で演じられた八面六臂の大活躍をへて、今や代名詞となった。
ピッチ上の誰よりも速い、と形容しても過言ではない。まさに「イナズマ」を連想させる異次元のスピードを武器に、森保ジャパンで必要不可欠な存在となったアタッカーは、ひとたびピッチを離れればシャイで朴訥な素顔を見せる。
例えば後半途中からFW大迫勇也(当時ヴェルダー・ブレーメン、現ヴィッセル神戸)に代わって左腕にキャプテンマークを巻いた昨年6月のU-24日本代表との親善試合。中心的な存在になったのでは、と試合後にメディアから問われた時だった。
「うーん、別に中心選手になったとは思っていないですし、自分のポジションにはいい選手がまだまだ大勢いるので。キャプテンマークはサコくん(大迫)が『誰にしますか』と森保(一)監督に聞いていて、オレはないかなと思っていたんですけど。サコくんの近くにいたからかな。まあ、いい経験と言えばいい経験でした」
代役の効かない選手、すなわちエースとなった自覚はあるのか。こう問われた昨年の11月シリーズ中には、ちょっぴりはにかみながら自らの現在地を表現している。
「自分がエースだと思ったことはないですね。得点に絡むのは自分の仕事だと思うけど、得点を取るキャラクターではないというか、味方がいい位置にいたらパスを出すチャンスメークも大事で、決して『自分が、自分が』とはならずに、その時々でいい選択ができたら。もちろん、試合に出たら何かやってやろうという気持ちは常に変わりませんけど」
コメントを見聞きするだけでは、自らの身体に宿る能力にピンと来ていないように感じる伊東独特のキャラクターは、異色に映るサッカー人生と密接に関係している。
自ら選んだスポットライトの当たらない道
神奈川県横須賀市で生まれ育った伊東は、中学進学を機に横浜F・マリノスの下部組織のセレクションを受けた。しかし、残念ながら不合格になっている。
高校進学時は強豪私立校にありがちな上下関係に嫌悪感を抱き、自宅から通える範囲で、なおかつお金もかからない公立校を志望。伊東が中学3年時に全国高校サッカー選手権の神奈川県大会決勝に進んだ、母親の母校でもある県立逗葉高に進んだ。
しかし、3年の神奈川県大会でベスト32止まりになるなど、高校3年間は全国大会に遠く届かないまま終わった。自宅から通えるから、という高校進学時と同じ理由で進んだ神奈川大学も、伊東の2年時に関東大学サッカーリーグ2部へ降格している。
伊東自身、当時はプロ志望を強く抱いていなかった。それでも、2部でプレーした2年間はともにリーグのベストイレブンに選出され、3年時は得点王を、4年時にはアシスト王を獲得。その春には全日本大学選抜に初めて招集されている。
数字やタイトルでは潜在能力を解き放ったと映るが、あくまでも主戦場は2部リーグ。しかし、この時点ですでに伊東に興味を抱くJクラブがあった。