さて、岸田政権のデジタル版田園都市国家構想に話を戻そう。5Gネットワークを全国展開するのは民間の会社が中心となるが、過疎地については政府の補助も入るのかもしれない。
デジタル・ネットワークが完成したとして、田園地帯で、農業と両立しつつ都会並みの生活インフラ(衣食住、医療、教育)など便利なサービスが実現するだろうか。事業が展開しやすいように各種規制緩和も重要であるし、再生エネルギーの利用で脱炭素な街にすることも必要だろう。成功すれば、人口減少に歯止めをかけることもできる。
構想実現のために重要なのは、国家の役割と民間の役割の明確化ではないだろうか。富士山麓にはトヨタ自動車が先端技術を詰め込んだ実験都市「ウーブン・シティ」の建設を始めている。東富士工場跡地である。
一企業でもトヨタほどの資金力があればデジタル田園都市をつくれるかもしれない。しかし、土地の確保、5G以外の生活インフラの整備などは政府の役割が大きいだろう。一方、インフラの上に乗ったサービスの提供は民間企業で、利益が出るような設計にすることが大切だ。実際にデジタル田園都市を1つでも2つでもつくって成功を収めれば、日本のデジタル・ガーデン・シティも、世界の都市計画の歴史に名を残すことになるだろう。(2月9日記)
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002〜14年東京大学教授。近著に『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。