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リーディングカンパニーとPwCコンサルティング
が語るこれからの経営課題

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リーディングカンパニーとPwCコンサルティングが語るこれからの経営課題

社会全体で多様化するニーズやDX推進の動きに後押しされ、あらゆる企業が未来に向けて、その事業形態を刷新し始めている。もちろん保険の世界も例外ではない。超少子高齢社会に突入し、生産人口の減少や社会保障の在り方の見直しが今後進むであろう日本。時代に先駆けたRPA導入やオープンイノベーション拠点の開発など、既存のサービスの枠に囚われない変革を進める日本生命は、“人生100年時代”に向けた戦略をどのように描いているのか。

テーブルを囲んだのは、日本生命保険相互会社取締役 専務執行役員 三笠裕司(以下、三笠)と、総合企画部担当部長 兼 イノベーション開発室長 練尾 諭(以下、練尾)、同社のDXをはじめとする戦略策定・実行を支援するPwCコンサルティング合同会社パートナーの古賀弘之(以下、古賀)と陀安信法(以下、陀安)。4人のプロフェッショナルが描き出す、保険業界の未来とは。

デジタルを活用して「保険」の枠を超えた価値提供を

──まずは今日の保険業界の動向や傾向、これからの方向性について、日本生命グループの変革をリードする三笠様とPwCコンサルティングで保険インダストリーリーダーを務める古賀様に伺います。古賀様は、保険業界の現状をどのように分析されていますか。

古賀 保険業界を俯瞰すると、業界を取り巻く環境の変化がここ数年、これまでにないスピードで進展していると感じます。少子高齢化の波はもちろん、顧客志向の多様化もあり、ネット生保、保険ショップ、商品特化型の保険会社などのチャネルの多様化が加速しました。一方で保険会社内では、パンデミックをきっかけに、顧客接点の多い営業領域のみならず、あらゆる業務領域で働き方が見直されているところも見過ごしてはいけません。

それらすべての課題に対するソリューションを考えたとき、デジタルの活用が必須であることは間違いありません。社内における効率化や、顧客一人ひとりに寄り添ったサービス提供が今後さらに求められることを考えると、もはやデジタルによるオペレーション改善のみならず、さらに利便性の高いサービス開発・提供による顧客体験の向上が不可欠になるのではないでしょうか。

三笠 日本生命では、RPAやAI OCR等に代表されるような効率化のためのデジタル活用については、以前より推進しています。営業職員はお客様との面談をはじめとするさまざまな場面でデジタルデバイスを活用していますし、顧客からも「紙のパンフレットよりも動画で説明してくれたほうがわかりやすい」という声をいただくケースもあるので、サービス提供の仕方にも確実にデジタルが浸透してきています。

私たちがこれまで以上に力を入れたいと考えているのは、既存のお客様に対してのサービス拡充です。現在1千万超のユーザーを抱える日本生命のサービス提供は、価値を一層高める時期に入ったと感じています。例えば、過去に年金保険に加入していたお客様が、実際に年金を受け取るタイミングを迎えようとしていますが、ただ年金を受け取るだけでなく、その先の人生をより豊かに送っていただくために自分たちは何を提供できるのかを考える時期に来ていると思うのです。

従来の生命保険会社では、お客様が保険を意識する機会は非常に少ないものでした。契約の見直しタイミングで10年に1度というのも、珍しくなかったと思います。しかしデジタル/インターネットの活用によって、24時間365日、お客様との接点を持つことができるようになりました。こうしたタッチポイントの圧倒的な増加は、これまでにない顧客体験の提供につながるのではと考えています。

古賀 確かに、保険契約を満了しても顧客の人生は続きます。保険業界はまさに、旧来のビジネスモデルに囚われない新たな価値創造のフェーズに入っていますよね。

三笠 おっしゃる通りです。「保険」という枠の中にいる限り、お客様に提供できる新たな価値は生まれにくい。そうではなく、「人生100年時代」を豊かに生きていただくために自分たちに何ができるか。そういった視点でのサービス設計が求められていると考えています。

古賀 ただし保険の枠を超えた新しいサービスを実現するとなると、企業内での連携にとどまらず、社会インフラの整備や連携、また業界の垣根を超えた提携など、いわゆるエコシステムを構築していく必要があります。

三笠 はい。そこで現在力を入れているのが、データ活用による保険とヘルスケア領域の融合です。人が100年を生きるとき、絶対に必要なのが“健康”です。認知症保障保険に、認知機能を声でチェックできるアプリの提供を組み合わせたり、糖尿病予防プログラム(簡易血糖チェックプラン)などの生活習慣病にまつわるサービスも展開したりと、お客様の健康を支える仕組みを、さまざまなパートナーとの協働を通じて構築していきたいと思っています。

(左)PwCコンサルティング合同会社 パートナー 古賀弘之、(右)日本生命保険相互会社 取締役 専務執行役員 三笠裕司

信頼に基づいた実行のスピードこそ変革のカギ

──日本生命グループは、デジタルを活用したコンサルティング力の向上/サービス提供体制の高度化/新たな商品やチャネルの開発などにより顧客提供価値の向上を目指す「日本生命デジタル5カ年計画」を進めていらっしゃいます。19年の策定以来、同計画はどのように進行しているのでしょうか。現場で施策を推進する練尾様と、日本生命グループの変革を支援する陀安様を中心に伺います。

練尾 「時代が変わっても変えない部分(伝統的・堅牢な業務運営を維持し既存の顧客・サービスを守ること)」と、「時代にキャッチアップして革新を図る部分(大胆なデジタル導入)」の2つの車輪を同時にまわすことで、改革を前に進めてきました。具体的な取り組みの一つとして、セキュリティの面から内製していた営業ツールを、既存のデバイス・システムをベースに、オープンイノベーションで社外とともにつくり上げるようになったことが挙げられます。伝統的・堅牢な業務運営のために、従来の保険会社は内製システムが常識でした。しかし技術革新によって時代は変化しています。利便性やデータ利活用の可能性に鑑みて、その仕組みを変革するべき時が来たのですね。

陀安 私たちはそうした日本生命の取り組みを支援し続けていますが、大胆な変革に伴走するなかで、三笠さんをはじめとするマネジメントのリーダーシップが組織をけん引する大きな力になっていたと感じます。

三笠 共創の取り組みは、あえてIT部門から切り離し、練尾が属する企画部マターとして独自に進めていきました。当初は別社屋にラボをつくるなど、まさに“出島”的な存在として、自由な発想で動ける体制をつくったのです。そして多少の失敗は、できないことを明確化できた結果だとポジティブに考える。課題に対する理解やノウハウを蓄積するために必要なことと考えれば、トータルでプラスになりますから。

陀安 とても素晴らしいお考えだと思います。私は金融機関や保険業界のデジタル関連プロジェクトに長年従事していますが、変革を起こす企業に共通するのは、実行段階のスピード感を意識していることや、マネジメントが推進部門に対し信頼を置いているといった特徴があることだと考えています。三笠さんは、練尾さんが指揮する現場の失敗を受け入れ、自由にやってもらうことでより柔軟な発想が生まれると信じていらっしゃる。出島は本来、本島と道でつながっているもの。マネジメントと推進部門が「信頼」でつながっていたからこそ、目先の結果に囚われず、かつスピーディーに動いていくことが可能になったのだと思います。

練尾 三笠が先ほど申し上げた通り、今後さらなる価値を生み出していくには他社や異業種との共創が不可欠だと思います。そうした取り組みは、アプリ・システム開発だけでなく、投資ファンドという形でも実践しています。しかしそれは金銭的なリターンを求めるものでは決してなく、ともに新たな仕組みをつくり上げるために行っているものです。重要なのは、シナジー。それにより日本生命単独ではできないエコシステムの構築が可能になると信じています。

(左)PwCコンサルティング合同会社 パートナー 陀安信法、(右)日本生命保険相互会社 総合企画部担当部長 兼 イノベーション開発室長 練尾 諭

「信頼」と「持続的な成長」こそ成長戦略のキーワード

──日本生命が、デジタル社会でさらなる価値を提供できる企業であるために、これからなすべきはどのようなことでしょうか。

三笠 昨年3月に策定した新中期経営計画「Going Beyond─超えて、その先へ─」でも触れているのですが、「“人・サービス・デジタル”で、お客様と社会の未来を支え続ける」ことが、私たちの目指す姿となります。具体的には、先ほど述べたヘルスケア領域の取り組みに加え、子育て支援やシニア就業支援などにも乗り出し、公共サービスと連携できるまでを目指したいと考えています。保険はそもそも10〜20年と長期にわたってお客様をお守りするものです。人生100年時代を生きる人々に安心安全を、包括的かつサステナブルに提供できればと思っています。

ただこうした社会インフラとも言うべき仕組みづくりは、独りよがりでできるものではありません。必要なのは、“客観的視点”です。その意味でも、PwCコンサルティングの皆様には大きな期待を抱いています。

古賀 ありがとうございます。PwCコンサルティングはこれまでも、買収・統合や新会社設立など、日本生命グループの重要な成長戦略を二人三脚で支援してきました。私たちは日本生命を誰よりもよく知るファームであると同時に、客観的視点を常に意識して価値の提供を行ってきたと自負しています。

PwCは新経営ビジョンとして「The New Equation」を掲げています。ここではこれからの社会で求められるニーズとして「Trust」と「Sustained Outcomes」の2つを定義しています。変化の激しい不確実な時代だからこそ、社会や顧客との信頼関係がより一層重要であり、それらが欠けた成長戦略はあり得ません。単に規模を追い求めるのではなく、先進テクノロジーを導入するだけでもない、“信頼”を軸に持続的な成長戦略を描いていくことこそ、これからの時代に求められる経営であると考えています。人生100年時代をともに豊かにするパートナーとして、今後も日本生命の成長をサポートしていきます。

三笠 裕司◎日本生命保険相互会社 取締役 専務執行役員
1986年入社。企画部門を中心に国際業務、主計なども経験。現在は取締役専務執行役員お客様サービス本部長として、お客様サービス領域、IT領域を担当。

練尾 諭◎日本生命保険相互会社 総合企画部担当部長 兼 イノベーション開発室長
1999年入社。保険システムの開発、大型プロジェクトマネジメントを経験し、直近はIT企画・DX部門にて、Fintechに関する調査・研究・開発や、投資計画、人材戦略等を担当。2021年より現職。

古賀 弘之◎PwCコンサルティング合同会社 パートナー
外資系コンサルティング会社を経て、2009年にプライスウォーターハウスクーパースに入社。金融サービス事業部における保険インダストリーリーダー、会計ソリューションリーダーなどを歴任し、多数の金融機関向けプロジェクトを統括。約25年にわたるコンサルティングサービスおよびプロジェクトマネジメントの経験をもつ。

陀安 信法◎PwCコンサルティング合同会社 パートナー
国内金融機関にて15年以上にわたってコンサルティングサービスを提供。現在は保険会社および保険会社のIT子会社において、IT組織戦略やコスト削減、先端テクノロジーを活用した企画構想など、IT関連の大型プロジェクト支援に従事。

text by Roichi Shimizu
photographs by Shuji Goto
edit by Akio Takashiro

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PwC コンサルティングはプロフェッショナルサービスファームとして、日本の未来を担いグローバルに活躍する企業と強固な信頼関係のもとで併走し、そのビジョンを共に描いている。本連載では、同社のプロフェッショナルが、未来創造に向けたイノベーションを進める企業のキーマンと対談し、それぞれの使命と存在意義について、そして望むべき未来とビジョンついて語り合う。