ビジネス

2022.03.01 17:00

1日1組のレストラン経営で勝負するシェフの覚悟──北野唯我「未来の職業道」ファイル

2022年版「アジアのベストレストラン50」で「アジアの最優秀女性シェフ賞(ASIA’S BEST FEMALE CHEF AWARD)」を受賞した庄司夏子


インタビューを終えて──覚悟をもって鍛錬し続けることの価値


「夢という言葉は嫌いです。目標ほど具体的ではないから」
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「若いときの苦労は、買い占めてでもやるべき。もし、目指した目標があるならば」

キッとした──。彼女の言葉には重たいパワーがあったからだ。その圧は私にこう問いかけてきた。「あなたには覚悟があるのか」と。「どうなんですか?」と。

覚悟を決めた人は、それまでの人生とは、1分1秒の価値が劇的に変わる。同じ地球に生きていても、違う時間軸の世界を生きている。そんな感覚を覚える。なぜか?
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それは、夢や目標をもつことの最大の価値とは、実は「時間の貴重さ」に気づけることだからである。夢や目標があると、その1秒、1分、1日の価値がとてつもなく尊いものに思える。そして、時間とは命である。つまり、夢や目標をもつ最大の価値とは、「どう生きるのか」という意味での命の貴重さを理解できることなのだ。

さて、今回の職業人は、庄司夏子氏である。一日1組限定のレストランを構える、いま世界でも注目されている料理人だ。アーティスト・村上隆とのコラボレーション、カラフルにフルーツを使った高級ケーキ、数々の美しく斬新なコンセプトで賞レースに勝ち続けてきた彼女は、自らの仕事である料理人を「命を預かっている仕事」だと表現した。

いい料理はお客の体をつくり、明日への生きる糧になる。一方で、もちろん食べる者の体を壊すこともできる。そう、料理人とは相手の命を預かり、明日につなぐ、最もクリエイティブな仕事のひとつなのだ。

少し見方を変えると、言わずもがな、料理とは、私たちの日常にとって、切っても切れない仕事である。家庭料理からレストラン、宅配サービス。自炊の経験が皆無な人もいないはずだ。私たちが生きていられるのは、つくり手の料理人が身近にいるからである。

その意味で、料理人という職業は、最も太古からある普遍的な職業でもありながら、最も極めるのが難しい仕事とも言えるだろう。そして前者と後者を分ける、違いは何か?

それが「夢や目標」であり、そのための覚悟だろう。実際に彼女は夢を目標に置き換え、覚悟をもって鍛錬し続けた結果、若くしていまのポジションを手に入れたのだから。

取材後に彼女は、私と取材班のためにサプライズでケーキを振る舞ってくれた。驚くほどうれしかった。このプレゼントに、彼女の言葉に、どんな職業にも共通する「突き抜けるための条件」を感じることができた。

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庄司夏子◎1989年、東京都生まれ。駒場学園高等学校 食物調理科卒業。代官山「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」(現「レクテ」)、南青山「フロリレージュ」のパティシエおよびスーシェフを経て、パティスリー「フルール・ド・エテ」を構える。2015年には、一日1テーブル(6名まで)限定の予約制レストラン「ete(エテ:フランス語で『夏』の意)」をオープン、翌年に法人化。19年に東京・渋谷区へ移転。20年3月に発表された「アジアのベストレストラン50」で日本人女性として初めて「ベストパティシエ賞」を受賞した。

北野唯我◎1987年、兵庫県生まれ。作家、ワンキャリア取締役。神戸大学経営学部卒業。博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略顧問などを兼務し、20年1月から現職。著書『転職の思考法』『天才を殺す凡人』『内定者への手紙』ほか。近著は『戦国ベンチャーズ』。

文=神吉弘邦、北野唯我 写真=桑嶋 維

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