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ビジネス

2022.03.01 17:00

1日1組のレストラン経営で勝負するシェフの覚悟──北野唯我「未来の職業道」ファイル


維持し続けながら進化する


北野:新規出店の誘いも庄司さんのもとに舞い込むと思いますが、相反する「規模とブランド」というものを、どう考えて進化させてきたのですか。

庄司:大きいカフェやレストランをやれば目先のお金は手に入るでしょうけど、自分に見えない部分が増えるので、いちばん大変だったとき支えてくれたお客様の恩をあだで返しかねません。私はいつも、事前にその方たちの心をつかむ好みを徹底的に考えて、完璧に準備するんですね。それが伴った結果としてのオートクチュールスタイルなんです。

私にとっての成長とは、いまを維持できること。それがすごく難しいんです。このスタイルはお客様との約束なので、拡大したらエテじゃなくなっちゃうな、とエテ子も言っています(笑)。

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北野:ブランドとは、まさにスタイルから生まれますからね。ちなみに、いまレストランは会員制ですか?

庄司:そういうわけではないですが、コロナの影響でそんなに知らないお客さんを取るのはリスクがあるので、ひと月14〜15組ほどのクローズドの営業です。海外からの予約も新規に受けたりしています。

お客様の数は増やしていないのに、売り上げは非常に上がっているんです。もうブランドを安く売っていないですし、1人当たりの使っていただく金額が増えました。一日1組のお店が安全で、コロナの時代にフィットしていると思われたのもあるでしょう。

北野:その時間、その場所、その人からしか食べられないものを突き詰めたから、世界中からお客さんが来られている。維持することが成長でもあるというのは、そういうことなんですね。先ほどこっそり売り上げを聞いて驚きました。

庄司:売り上げが欲しいから満席パンパンにしていると機会を逃します。60〜70%の稼働にしておき、大きなチャンスは絶対ものにする。だから、世界的に著名なシェフなどを迎えられることもあります。

北野:あらためて、料理人とはどんな職業ですか。

庄司:その日に来ているお客様の命を預かっている気もちでいつも仕事をしています。任せていただいたことへの責任感が伴う職業です。

以前につくった料理を振り返って「なんでこんなものをつくっていたんだろう」と思うことがあります。そのときの自分がもっていた知識と技術量を発揮した一皿ですが、年月がたち、さらに知識とちゃんとした技術を蓄えたことがわかるので「ああ、自分は料理人として大丈夫だ」と思えます。

北野:死ぬまで料理人であり続けたいですか?

庄司:いえ、まだいけると思っても、自分のピークはいつか来ます。昨日の料理より今日の料理が劣っていたら失礼なので、それが引き際です。おそらく自分しか判断できません。自分に厳しくあり続ければ、自分のことは自分がいちばんわかりますから。
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文=神吉弘邦、北野唯我 写真=桑嶋 維

この記事は 「Forbes JAPAN No.089 2022年1月号(2021/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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