ビジネス

2022.03.09

元コンサルCEOは、大学発スタートアップの「あるある」をどう乗り越えたのか

創業者でCSOの細川正人とCEOの佐藤公彦(撮影=曽川拓哉)


── CEOの佐藤さんとの出会いは?

細川:設立時は、UTEC(東京大学エッジキャピタルパートナーズ)の支援のもとで知財を専門とする人材に代表を任せました。ただ、将来的には経営に特化した人材を外部から招くことを決めていました。

その方が複数のスタートアップ支援を兼ねていたこと、ビットバイオームの従業員はほとんど研究者だったことが理由です。

若くパッションに溢れ、そして研究者の気持ちを理解しながら経営の舵取りをしてくれる人を探していたところ、共通の知人から紹介されたのが佐藤です。研究者だと経営人材とのコネクションがほとんどないので、採用で重要なのはレファレンス、つまり第三者からの紹介です。

佐藤公彦(以下、佐藤):会社の設備を見せていただいて、面白い技術をもっていると思ったのが第一印象でした。その後、食事をしながら話をする中で、ここに入らないと後悔すると思ったんです。その理由はいくつかあります。

ゲノム解析
オフィスに置かれた、ゲノム解析に使われる機器

1つは、もともと幼少の頃に野口英世の伝記を読んで、「彼のように疾患で苦しんでいる人たちのためにヘルスケアの仕事がしたい」という思いを抱いていたから。また、この会社には「ゲームチェンジできる知財と技術」があり、独自技術のbit-MAPは本当に世界を変えられると思えた。世界を変えようという気概のある若いメンバーが揃っていたのも魅力でした。

さらに惹かれたのは、「自分の舵取り次第で会社が100倍にも成長する余地があったこと」です。

ビットバイオーム
CEOの佐藤公彦

2020年の2月にCOOとして入ったのですが、その時はまだシリーズBの資金調達前で、会社の戦略が明確ではない状況。そこで、自分が思考してそれをクリアにすることに面白さを見出しました。

細川:実際に一緒に仕事をするなかで思うのは、道を指し示して相手に伝える能力が高く、チームビルディングの面で信頼できる人間だと。ゴールを定め、それを正解にしていくことがスタートアップ企業の経営では重要だと気付かされました。こうした経営は、自分も含めて大学にいる研究者にはできないと思います。

ITスタートアップと違う「技術起点」の事業


── トップになって意識したことは?

佐藤:ITスタートアップの多くは、「課題を解決したい」からビジネスがはじまり、ニーズを探りながらツールを開発していきます。ただ、大学発のスタートアップは、技術起点がほとんど。

すでにある技術が何に使えるのかもわからないところから始まるので、それが解決できるはずの大きな課題が見えないことがあります。そのため、目の前にある案件や技術開発への取り組みに終始してしまう。こうした、将来に向けてやるべきことが不明瞭な状態のことを「ボトムアップ思考」と呼んでいます。

私がCEOになる2021年の3月までのビットバイオームはその状態でした。

しかし私たちは単なるゲノム解析技術の企業になるつもりはないんです。目先の利益をとっていくのでは、スタートアップとして爆発的な成長は見込めない。

そこでCEOとしてまず、「ゲノムデータベースを構築してプラットフォーマーになること」を目標としました。ゴールを定め、そこから逆算して事業基盤やパートナリングを考え、今着手すべきことを決める「トップダウン思考」に切り替えていったのです。
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文=島田祥輔 取材・編集=露原直人 撮影=曽川拓哉

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