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2022.03.09

元コンサルCEOは、大学発スタートアップの「あるある」をどう乗り越えたのか

創業者でCSOの細川正人とCEOの佐藤公彦(撮影=曽川拓哉)

寄生虫病の治療薬「イベルメクチン」は、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した北里大学の大村智教授が開発した。

その開発のきっかけは静岡県にあるゴルフ場近くの土の中。そこで生息する微生物が作る物質に、寄生虫を殺す性質があることを発見し、その物質を改良することでイベルメクチンが生み出されたのだ。

微生物はそうした創薬や、新規素材を生み出す可能性を秘めているが、実は地球上に存在する全微生物のうち、発見されているのは0.001%以下と言われている。

微生物がどのような物質を作り、どのような遺伝情報(ゲノム)をもっているかがわかれば、薬だけでなく、化粧品成分やサプリメント、材料などにつながる物質を作ることもできるかもしれない。

そこに目をつけ、事業化したのが早稲田大学発の研究開発型バイオテクノロジー・スタートアップ企業bitBiome(ビットバイオーム)だ。

2018年11月に設立された同社は、独自の微生物ゲノム解析技術をもち、未利用資源とも言える微生物ゲノムのデータベース構築を目指す。

早稲田大学で研究を行ってきた細川正人が創業し、現在は、製薬メーカーなどに向けた戦略コンサルティングを経験した佐藤公彦がCEOを務める。

佐藤がCEOになる2021年の3月頃までは、まだ勝てる事業戦略が見えていなかったというが、2人はどのような経緯でタッグを組み、いかにして組織を改革してきたのか。細川と佐藤に話を聞いた。


── 創業のきっかけは。

細川正人(以下、細川):私は現在、早稲田大学にも籍を置いて、微生物のシングルセルゲノム解析技術「bit-MAP」を開発しています。従来は、微生物を培養することでゲノム解析を行ってきましたが、この技術を使うことで、培養することなく微生物の細胞を1個ずつに分けて個別にゲノムを調べられるようになりました。

2018年当時、特に海外では、大学の研究を商業化するスタートアップ企業が増えていましたが、微生物のシングルセルゲノム解析技術は、世界でも一部の専門家しかできず、サービスとして提供しているところがありませんでした。

CSOの細川
CSOの細川正人

大学ではいろいろな施設と共同研究をしてきましたが、やはり学生と少ないスタッフだけでできることは限られています。そこで、事業として技術を提供しようと、2018年にビットバイオームを設立しました。今でもビジネス化しているのは世界で唯一、弊社だけで、すでに11万種の微生物ゲノムデータを保有しています。
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文=島田祥輔 取材・編集=露原直人 撮影=曽川拓哉

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