国際宇宙ステーションの乗組員が感じる「戦争の虚しさ」

国際宇宙ステーション(Paolo Nespoli - ESA/NASA via Getty Images)

映画「2001年宇宙の旅」の続篇として1984年に公開された映画「2010」では、米国とロシアの宇宙飛行士が協力して任務を行うが、両国の緊張が高まった結果、政府がクルーの分離を命じる場面が描かれる。

元アメリカ人宇宙飛行士のグレゴリー・シャミトフは、2008年に国際宇宙ステーション(ISS)に滞在していた際に、ロシア人のクルーたちと共にこの映画を観たという。問題のシーンにさしかかると彼は、「君たちも、自分の国に戻るんだ!」とジョークを飛ばしたという。

このユーモラスな瞬間が今、現実の世界と重なっている。ロシアがウクライナに侵攻したことで世界は緊迫しているが、地球から約400キロ上空の国際宇宙ステーション(ISS)では、4人の米国人と1人のヨーロッパ人、そして2人のロシア人のクルーたちが共に暮らし、作業を行っている。

各国の宇宙飛行士が、緊張が高まる中で宇宙ステーションに滞在するのは今回が初めてではない。ISSのミッションが2000年10月に始まって以来、地上ではいくつもの対立が発生したが、彼らは常に協力し合ってきた。

例えば、ロシアが隣国のグルジアと衝突したとき、米国人のシャミトフはロシア人の宇宙飛行士とISSに滞在していた。「私たちはそのことについて話し合った。彼らはロシアとグルジアの間に何が起きているのかを、説明してくれた」と彼は話す。

シャミトフによると、紛争が激化している間も、クルーたちの行動を変えるような地上からの司令は一切無かったという。「誰もがミッションに集中していたし、そのまま任務を続行した」と彼は話す。

2014年にロシアがウクライナのクリミアを併合した際、ロシアのクルーと共にISSに滞在した米国人宇宙飛行士のリチャード・マストラキオも、同様の体験をした。乗組員の間に緊張が生じることは無かったと彼は述べている。

彼の当時の最大の思い出は、仲間の宇宙飛行士の一人が、ウクライナに住む家族の安否を心配し、地球との通信に多くの時間を費やしていたことだという。仲間にとって、それは多分、とても辛いことだろうと考えたことを、彼は覚えている。
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編集=上田裕資

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