独自取材で判明、イーサリアム史上最大の謎「The DAO事件」の犯人

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暗号通貨市場で時価総額がビットコインに次いで第2位のイーサリアムはこれまで、2016年に発生した「The DAO事件」の犯人は誰なのかという謎を抱えていた。The DAOというのは、イーサリアムのプラットフォーム上の分散型の投資組織で、投資先をファンドの参加者の投票で決め、利益が上がれば投資者にDAOと呼ばれるトークンを分配する仕組みになっていた。

このファンドは、2016年にクラウドセールで1億3900万ドル相当のイーサ(ETH)を調達したが、その直後にハッカーがThe DAOにあったイーサの約3分の1にあたる364万イーサをDarkDAOと呼ばれる場所に奪い取る事件が発生した。364万イーサは、現在の価値で約110億ドル(約1兆2700億円)に相当する。

The DAOをハッキングしたのは誰なのか──。筆者は新たな著書の『The Cryptopians:Idealism, Greed, Lies, and the Making of the First Big Cryptocurrency Craze(クリプトピアンズ:理想主義、欲望、嘘と最初の暗号通貨ブームの形成)』のための取材を通じ、そのハッカーが当時シンガポール在住だった36歳のプログラマーのトビー・ホーニッシュ(Toby Hoenisch)だと考えられる証拠を入手した。

これまでホーニッシュは、2017年のICOで8000万ドルを調達し、暗号通貨デビットカードの立ち上げを目指したものの失敗に終わった「TenX」の共同創業者兼CEOとして知られていた。

筆者は、ホーニッシュに彼がハッカーであることを示す証拠を記したメールを送ったが、彼は、「あなたの意見とそこから導いた結論は事実に反している」という返事を寄こした。そのメールの中で、ホーニッシュは筆者の調査結果を否定する詳細な情報を提供すると述べたが、筆者がその詳細を尋ねるために何度も送ったメッセージに返信していない。

6年に及ぶ調査で判明


筆者は6年間に及ぶ調査を通じ、暗号通貨のトランザクションを追跡する技術が、どれほど進化したかを実感している。筆者と情報提供者たちは、暗号通貨の不正検出やマネーロンダリングの調査を行うスタートアップ「チェイナリシス(Chainalysis)」が開発した強力なツールを利用して、ハッカーを特定した。

ブロックチェーン技術は、今ではメインストリームになったが、当局の規制圧力とテクノロジーの進化のおかげで、かつて暗号通貨のメリットの一つと考えられていた匿名性は弱まっている。

筆者は、ホーニッシュのハッキングが、The DAOのコミュニティに対するある種の復讐だったのかもしれないと考えている。彼は、システムの脆弱性を早期に発見して警告したが、その警告が軽視されたと判断して、攻撃を決意したのかもしれない。TenXのもう一人の共同創業者のジュリアン・ホスプ(Julian Hosp)は、「ホーニッシュは、非常に強いオピニオンを持つ人物で、常に自分が正しいと主張していた」と語っている。

彼は、「欠陥のあるコードで、出来ることをしただけだ」と自分に言い聞かせて、自分の行動を正当化していたのかもしれない。
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翻訳・編集=上田裕資

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