さらに言えば、Car ThingはSpotifyのバージョンとしても最悪なものになってしまっている。
車への進出ではアップルやグーグルのほうがはるかに先行しており、消費者はネットとつながる最新の車やトラックを選ぶにあたって、CarPlayやAndroid Autoに対応していることを求めるようになっている。これらのソフトウェアが備わっていれば、Spotifyはもちろん、「Google Maps」や「Waze」「Apple Music」といった情報・娯楽系アプリを車の中で手軽に利用できるからだ。
対してCar Thingでは他社のアプリはいっさい使えず、Spotifyにしても2010年に戻ったかのような重たい動作になっている。
皮肉なのは、Car Thingもスマートデバイス時代に対応してつくられたものであるという点だ。昔の車は、いまの車では当たり前のように使えるようになってきている情報・娯楽システムを搭載していない。Car Thingはそうした古い車にもSpotifyを持ち込めるようにしたものだ。そこでは、ユーザーがスマートフォンを保有していることが前提とされている。
だが、ここに問題がある。ユーザーがiPhoneやAndroidのスマートフォンをもっているのなら、そもそもCar Thingは不要なのだ。Androidで「ドライブモード(公共モード)」に切り替えれば、Google MapsはSpotifyと連携するようになる。選曲や再生はすべて音声で行える。この点だけでもCar Thingの機能を上回っているし、追加でお金を払う必要もない。スマートフォン本体を使えば、Car Thingよりも性能の高いプロセッサーを利用できるメリットもある。
スポティファイの幹部たちも必死なのだろうが、空回りしてしまっているようだ。ストリーミング事業が成熟するなか、成長のために新たな事業を見つけようとしているのはよくわかるが、アップルやグーグルのシステムに対応していない昔の車をターゲットに据えるというのはどうにも理解しがたい。言うまでもなく、こうした車の市場は縮小しているからである。