気候変動対策、ロシアへの懸念、フランスが原発新設を進める理由

フランスのベルヴィル原子力発電所(Photo by Mehmet Acar/Anadolu Agency/Getty Images)

ロシアによるウクライナ侵攻の危機とサプライチェーンの逼迫を背景に、フランスは原子力発電の拡大を検討しており、2050年までに最大14基の原発が新設される可能性がある。天然ガス不足に備えるとともに、気候変動対策も兼ねた計画であり、建設は早ければ2028年に開始される見込みだ。

ヨーロッパの天然ガス価格が高騰するなか、ロシアがウクライナ国境に兵力を配備したことで、ヨーロッパは、ロシアからの天然ガスを禁輸する措置を敷かざるを得なくなる可能性がある。フランスは1970年代以来、同国の電力の70%以上を原発で賄ってきた。そして現在、「カーボンフリーで安定したエネルギー源」として、原発への回帰をはかっている。

「わが国に必要なのは(中略)フランスの原子力産業の再興だ」と、エマニュエル・マクロン仏大統領は演説で語った。彼はまた、洋上風力発電と太陽光発電のシェアの増加に力を入れることや、既存原発の耐用年数を延長することも公約した。天然ガス価格の高騰と原発の停止により、フランスはこの冬、やむを得ず石炭の使用量を増やした。

2050年までに世界人口は40%増加し、エネルギー需要は少なくとも倍増すると予測されている。最も効率的でクリーンなエネルギー供給手段が何かについては議論が絶えない。オンサイトの再生可能エネルギーは、とりわけエネルギーへのアクセスがない場所で効果を発揮するだろう。だが、インフラが整備された世界の広い地域では、24時間休みなく稼働する低炭素発電所がより効率的だ。

原発は、いったん建設が完了すれば、稼働コストは低く、温室効果ガスを排出しない。米国では、全電力の20%、カーボンフリー電力の半分以上が原子力由来だ。世界を見渡すと、原発はエネルギー供給の10%を占めており、452基が稼働中だ。原子力と水力は、世界の低炭素エネルギーの75%を供給している。

パリに本部を置く国際エネルギー機関(IEA)によると、原発が生み出すエネルギーは、2020年から2050年のあいだに倍増が予測される。原子力発電はネットゼロ戦略の不可欠な要素であり、とりわけ、2030年までに1990年比で55%の排出削減を目標に掲げるヨーロッパでは重要だ。ただし、グリーンエネルギープログラムの構築に、より多く投資すべきだという批判もある。

「先進国の原発は、完成から平均35年が経過しており、多くが設計時の想定稼働年数の終わりに近づいている」と、IEAの報告書は述べている。「稼働年数を考慮すると、今後は原発の廃炉が相次ぎ、2025年までに先進国の既存の原子力発電能力の25%が失われると予測される」
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翻訳=的場知之/ガリレオ

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