スティーブ・ジョブズの素顔:STORY01 ガイ・カワサキ

短気で怒りやすいジョブズが、後継者としてCEOに選んだのは温和なティム・クック(左)だった。

革新的な製品を生み出してきた故スティーブ・ジョブズは、どのようにして社員を奮い立たせ、周囲の人々を巻き込みながらアイデアを形にしていったのだろう。

気の許せる人の前で見せた意外な姿から、優秀な人材を引き抜く際の口説き文句まで。
ジョブズ急逝から1年後の2012年本誌11月号にて、苦楽をともにした仲間たちが、“ありのままのジョブズ”を語ってくれた。今世紀最高の経営者の素顔とは。


STORY 1 ガイ・カワサキ (元アップルのチーフ・エバンジェリスト)

Macが発売されたあとの1984年のある日、私が自分の半個室で仕事をしていると、スティーブがひとりの男を連れて現れました。

そして、「ノーウェア」というMac用のプログラムをどう思うか、と私に聞いてきたのです。

私は、思っていたことを素直に口にしました。かなり批判的な内容でしたが、遠慮する必要もないので、自分なりの意見をスティーブに伝えました。

一通り話し終えると、彼はまず一緒に居た男の顔に視線を注ぎ、そしてすぐに私のほうに向き直って「ガイ、この人、ノーウェアのCEOなんだよね」と言ってきたのです。

彼は、社員をさらし者にし、精神的に痛めつけることに躊躇のない人でした。それは、あらゆる場面においていえることで、スティーブという人間をよく表しています。彼のファンであれば、「ほら、何事も率直に伝えることのできる人だ」と言うでしょうけど、彼のファンでなければ「社会的な礼節を欠いた人物」と評するでしょうね。

人に対してどんなに厳しいことを言っても素晴らしい社員に恵まれたのは、彼が「すごい仕事」をきちんと評価していたからです。人の上に立つ人間なら、誰でもできるというものではありません。

社員にいいフィードバックを与える、ということにはふたつの要素があります。部下がいい仕事をしたのか、それとも悪い仕事をしたのか。仕事の“価値”をしっかり理解すること、そしてそれを相手にきちんと伝えるだけの“ 無遠慮さ”を持ち合わせている必要がありますね。無遠慮さだけあって、仕事の価値を正しく評価できない人は、山ほどいますけれど。

すごい仕事をしたければ、アップルに行けばいい。でも、そこには「公衆の面前で恥をかく」という代償も伴います。
前述のようなやり取りは、ヒューレット・パッカードでは絶対に起こらないでしょうね。ヒューレット・パッカードのポリシーに反しますから。一方、ヒューレット・パッカードでは、飛び抜けてすごい仕事はできないでしょう。なぜなら、その“すごさ”をきちんと理解してくれる人がいないからです。

さあ、あなただったら、アップルとヒューレット・パッカードのどちらで働きたいと思いますか?

コニー・ギリエルモ=インタビュー 山崎正夫=イラスト 徳田令子/アシーマ=翻訳

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