前者はアガサ・クリスティ原作のミステリー作品で、日本公開は2月25日。後者はアカデミー賞で作品賞、監督賞を含む7部門にノミネートされている注目作で、ちょうど1カ月後の3月25日の封切りとなる。
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「ナイル殺人事件」は、1937年のエジプトが主要な舞台。ナイル川を遡る豪華クルーズ船で起こる連続殺人事件を、ギザのピラミッドやアブ・シンベル神殿などの風光明媚な映像を織り交ぜながら描いた絢爛豪華な作品だ。
一方、「ベルファスト」はタイトルが示す通り、1960年代末の北アイルランド紛争で揺れる故郷の地を、少年の視点を通してモノクロームの力強い映像で描いたもの。監督自身も「パーソナルな作品。私が愛した場所、愛した人たちの物語」と断言している。
かたや極上のエンターテインメント、かたや賞レースでも高い評価を得る作家性が色濃く反映された作品。対照的な2つの作品が、奇しくも日を置かず公開されることになったケネス・ブラナー監督だが、このことはまさに彼が持つ多彩な才能を象徴していると言ってもよい。
シェイクスピアからディズニーまで
ケネス・ブラナー監督は、1960年に北アイルランドのベルファストに生まれた。9歳のときイングランドに移住して、王立演劇学校を主席で卒業。23歳でロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに入団、「ローレンス・オリビエの再来」と呼ばれ、まず舞台俳優としてのキャリアを重ねる。
1989年公開の「ヘンリー五世」で映画監督にも進出。この作品では主演と脚本も務め、早くもアカデミー賞の監督賞と主演男優賞にノミネートされる。その後「ハムレット」(1996年)など多数の作品で監督と俳優を兼任。脚本も務めた「ハムレット」ではアカデミー賞の脚色賞にノミネートされ、多彩な才能に注目が集まる。
俳優としてのみ出演する作品も多く、直近では「ダンケルク」(2017年)や「TENET テネット」(2020年)などの話題作で重要な役を演じている。また監督だけの作品としては、「マイティ・ソー」(2011年)や「シンデレラ」(2015年)などがあり、そのキャリアはシェイクスピアから始まり、マーベル作品、ディズニー映画まで幅広い分野にわたっている。
「ナイル殺人事件」でも、2017年の「オリエント急行殺人事件」に続いて再び主演と監督を務めており、個性の強い名探偵エルキュール・ポワロ役を印象深く演じながら、アガサ・クリスティの代表作の映像化を見事に果たしている。