NFTブームで急成長、「アニモカ」創業者の波乱に満ちた人生

ヤット・シウ(Photo by K. Y. Cheng/South China Morning Post via Getty Images)


その一例に挙げられるのが、アニモカ社のモバイルゲームの「サンドボックス(The Sandbox)」だ。このゲームのプレイヤーは、約4000ドルで仮想空間の土地を購入し、そこにカスタムの建物やオブジェクト、キャラクターを詰め込み、時間をかけるだけで、より高い価格で転売できる。

アニモカ社は、その取引から手数料を受け取っている。また、サンドボックスには、SANDと呼ばれるゲーム内通貨があり、CoinMarketCapによると、その時価総額は現在約45億ドルに達している。

孤独な少年から起業家へ


シウは、幼い頃からテクノロジーへの情熱を燃やしていた。1980年代のウィーンで育った彼は、中国人の血を引いていることから疎外感を感じていたという。彼は寂しさを紛らわすために、コンピュータと急成長していたインターネットに救いを求めた。

テキサスインスツルメンツ社製の初期のコンピュータで独学でプログラミングを学び、後にアタリSTに乗り換えた。10代の彼はMIDIポートを使ってキーボードを接続し、作曲ソフトをオンラインで公開し始めた。

彼の年齢を知らなかったアタリ社は、オーストリアの支社で正社員としての面接を行った結果、彼をコンサルタントとして雇うことにした。

大学を中退し、いくつかの起業を経験した後、シウは1998年に香港で電子メール会社の「アウトブレイズ(Outblaze)」を設立して成功させた。そして2009年、同社のクラウド部門をIBMに数億ドルで売却した。

その後、シウは2011年にアウトブレイズの子会社としてアニモカ社を設立し、モバイルゲームの開発に乗り出し、2015年にはオーストラリア証券取引所に上場させた。しかし、事業はいきなり困難に直面した。

2012年には突然、アップルのアップストアでアニモカのゲームの全タイトルが削除された。アップルからは何の説明も無かったというが、シウは、毎週新作をリリースするという同社の戦略が、「スパム行為」と判断されたのではないかと考えている。

シウは、その後、「きかんしゃトーマス」や「ドラえもん」などのライセンスを受けた子供向けゲームの制作にシフトし、2013年には再びアップストアにタイトルを掲載したがアップルはその頃からこのカテゴリーを重視しなくなり、2017年にはさらなる苦境に追い込まれた。

そんなとき、転機となったのが、出資先のゲーム会社から聞いたクリプトキティーズと呼ばれるNFTゲームの話だった。仮想空間でネコを飼育するこのゲームは瞬く間に成功を収め、リリースから1カ月後の2017年12月には、イーサリアムのブロックチェーンをクラッシュさせるほどの人気を博していた。

その数ヵ月後には暗号通貨市場が大暴落に襲われ、2018年の「クリプトの冬」が始まったが、このゲームに投資したシウは希望を捨てなかった。香港で開催されたNFTのカンファレンスには250人が集まり、彼はその会場でOpenSeaや仮想空間で土地取引を行うDecentralandのチームらとネットワークを築いた。

一方で、暗号通貨ビジネスへに参入したシウに、ASX(オーストラリア証券取引所)は厳しい選択を迫った。それは、暗号通貨ビジネスをあきらめるか、それとも上場廃止を受け入れるかというものだった。「怖かった」とシウは言うが、結果的にアニモカ社は2020年3月に上場廃止となった。
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翻訳・編集=上田裕資

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