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2022.02.26 11:30

世界初の製品を生み出し続けるデバイスメーカーの秘密|生方製作所

Forbes JAPAN編集部

生方製作所には、コンピュータによるシミュレーションに頼らず、実際に現物を手で触りながら開発する伝統がある。「いちおうシステムはあります。でも、『計算上、鉄が何℃になる』とうっかり口を滑らせようものなら、技術担当の常務取締役に『おまえ、ほんとに手で触ったんか』と怒られる」

直流遮断器の開発も、徹底した現物主義だった。実際に爆発が起きるかどうかを測るため、試験では水加熱ヒーターを何台も燃やした。その甲斐あって、2014年には世界初の高電圧・大電流用感熱式直流遮断器の開発に成功している。

「ただ、現物をいじるうちになんとなくできたから、遮断できた理由がわからなかったんです(笑)。それを説明できなければ採用してもらえない。慌てて大学にもちこみ、数式で理論化してもらいました」

これも同社の現物主義がよくわかるエピソードだ。

実は、このときは先方の事情で採用に至らなかった。しかし、そこからは父が築いたブランドや営業力が生きる。弟の将やUDT2開発リーダーの石井成尚が中心となって、海外メーカーにアプローチ。サンプルをもって中国、ドイツなど世界中を飛び回った。コネクションがなかった会社も、UBUKATAの名前を出すと聞いてくれた。

何度も跳ね返されたが、粘り強く営業した結果、ようやく量産のノミネーションを得たのは冒頭に紹介した通りだ。

「詳細は明かせませんが、22年には、あるメーカーからUDT2を積んだEVが市販されます。EVの販売台数は右肩上がり。UDT2が感震器の年間生産数600万台を超えるのも、それほど遠い話ではないと思っています」


代表取締役専務の生方眞之介(写真中央)と弟で取締役グローバルマーケティングセンター長の生方将(同右)、開発リーダーの石井成尚(同左)。

技術の祖父と、マーケティングの父。二人の天才のDNAは、孫世代の眞之介と将に引き継がれた。

はたして、創業家3代目は何の天才なのか。そう問うと、眞之介は謙虚な言葉を選びつつも、自信をもってこう答えた。「私は凡人で、特別な才能は何もありません。ただ、生方製作所に入社したのは31歳で、歴代社長に比べて外で働いた経験が長いんです。そのぶん従業員に寄り添って、みんなの力を引き出す経営ができる。『眞之介は頼りない。だけど、言っていることには夢がある。しょうがねえ、一緒にやってやるか』。みんなにそう思ってもらえれば、生方製作所はもっと強くなる」


生方眞之介◎生方製作所代表取締役専務。1985年生まれ。米国ミシガン州立グランドバレー大学ビジネス学部卒。P&Gジャパン、リサイクル/リユース業などを経て17年に家業の生方製作所へ。21年6月より現職。

生方製作所◎1957年、愛知県名古屋市に創業。世界シェア70%を誇るエアコン用のモータープロテクターや、国内シェア90%のガスメーター用感震器などのセーフティ・デバイスを手がける。2014年には世界初の高電圧・大電流用の感熱式直流遮断器を開発した。従業員数は215人。


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文=村上 敬 写真=前 康輔 ヘアメイク=Yoboon(Coccina)

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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