その象徴が、世界シェア70%を誇るエアコン用のモータープロテクターだ。例えば、モーターに異物が挟まると、モーターの回る力で異常発熱が起きる。プロテクターには熱膨張係数の異なる2種類のメタルを貼り合わせたスイッチがついていて(バイメタルスイッチ)、熱が加わると伸縮しにくい側に曲がり、電気回路を物理的に切り離す。
原理はシンプルで、バイメタルの素材もサプライヤーから調達する汎用品だ。それにもかかわらずほぼ独占なのは、生方製作所に繊細な加工技術があるからだ。「バイメタルスイッチのどこにツメを入れて、どれくらいに絞るか。それを気が遠くなるほど積み重ねて加工技術を磨いてきた。うちのモータープロテクターを他社がリバースエンジニアリングしても、おそらく同じものはつくれないでしょうね」
バイメタルスイッチは生方製作所の得意分野。繊細な加工技術をもつ。
モータープロテクターが使われるのは、室温に合わせてモーターの回転数が変わるインバーター式ではなく、同じ回転数で回り続ける旧式の一定速エアコンだ。現在は世界で高いシェアがあるが、今後、インバーター式に代替されたら市場そのものが消滅するおそれがあるのではないか。そう問いをぶつけたが、眞之介の表情に不安の影はない。
「インバーター式の価格は一定速の3倍以上。高いエアコンを買わなければ豊かな生活ができないというのであれは、途上国の人たちが取り残されてしまう。実際、そうはならないはず。一定速エアコンの販売台数は世界で伸び続けています」
生方製作所には、圧倒的なニッチトップ商品がもうひとつある。ガスのマイコンメーターに内蔵されている感震器だ。感震器の内部には球体が入っている。揺れると球体が回路に触れて通電し、遮断弁が作動してガスを止める仕組みだ。
ガス用感震器で同社の国内シェアは9割。残りの1割は大手電機メーカーだ。感震器も原理は単純で開発は難しくないように思えるが、眞之介は「競合とは誤遮断率が違う」と胸を張る。
「家のそばをトラックが通っただけでも球体が揺れることがあります。ただ、揺れのパターンは地震のときと違う。私たちは感震器を30年売り続けていて、あらゆる揺れのデータをもっている。ここは大手さんも追いつけない」
感震器は日本のほか、イタリアや台湾でも採用されている。米カリフォルニア州でも法改正で感震装置設置が義務化されたため、現在アプローチしているところだ。
「本当は南米などの地震の多い地域でも展開したい。ただ、向こうは普段からお金をかけて家を守るより、地震で火災が起きても、自分たちが逃げて建物はまた建て直せばいいという考えが強い。貧しい国でこそ必要なのに、市場性がないのはジレンマです」