下の表「意味のイノベーションとは?」の「テクニカルイノベーション」が役に立つことを目的とした商品やサービスを指す。エアコンや炊飯器など家電がわかりやすいだろう。「役に立つ」ということは誰もが共感できるが、ブランドのもつ「意味的な価値」は全員が理解するわけではない。「人と違う」ということにまさに意味がある。
意味的な価値を持つものが市場でバカ売れするというのはパラドックスで、必然的に市場での普遍性は下がる。しかし、人気のバルミューダはどうだろうか。一時期、デザイン家電と呼ばれたバルミューダは、独自の技術とクリエイティビティで価値体験を提供し、高価格帯ながら市場でのポジショニングに成功した。
こうした企業はあくまでもリーダーが直感的にやりたいと思うかどうかが大事で、そのリーダーの美意識に共感する人たちは実は世界中にいる。これまで100人中70人が気に入るものを押し付けられていたけど、「いや自分は違うんだ」という人たちにとって意味があることが大きな価値をもつ。
例えばSDGsを意識したエシカル消費はいまや当たり前になったように、20年前までの常識では「ガソリン自動車に乗ることはよくない」と感じる人は皆無だった。テスラのイーロン・マスクだけが「これはおかしい」と言い始め、新たなペインが世に提示されたのだ。
資金調達やブランディングが簡単にできるようになったいま、「この問題をなんとかして解きたい」という想いに共感するからこそステークホルダーとのエンゲージメントやモチベーションが生まれる。こうしたモチベーションこそが経営において事業を加速させるエンジンとなり、かつ意味を求める人々の幸福感にもつながる。
つまり、意味のイノベーションを追求することとスモール・ジャイアンツを目指すことは同義なのだ。
山口周◎1970年、東京都生まれ。独立研究者、著作家。電通、BCG等で戦略策定、組織開発に従事。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)『武器になる哲学』(KADOKAWA)など著書多数。中川政七商店社外取締役、モバイルファクトリー社外取締役。
「Forbes JAPAN」2022年4月号では、スモール・ジャイアンツ受賞各社のインタビュー記事や経営学者・入山章栄、独立研究者・山口周など有識者らによる特別寄稿に加え、ユニークな新規事業に挑む地域発のイノベーターたちをモデルごとに一挙公開。地域に根差しながら、地球規模の視野で、よき未来をつくろうと邁進する彼らの取り組みからは、「いま」そして「これから」の企業のあるべき姿が見えてくる。