「新・中小企業」というカテゴリーを世に提唱すべきではないか。大企業や中小企業という組織のサイズを超越した企業があるからだ。同業他社とは明確に一線を画すインパクト──新たな市場を創造し、後続する参入者を生みだす企業こそ、私たちがスモール・ジャイアンツと呼ぶ新・中小企業だ。
日本はそんな企業を生んできた歴史がある。1963年のベストセラー『危ない会社』という神戸大学の占部都美教授の本で名指しされたのが、現在のヤマト運輸である。すでに上場していたが、経営は厳しく、同業他社に差をつけられていた。71年に社長に就任した小倉昌男が目をつけたのが、子どもに荷物を送りたい親心だ。
これは常識外れの発想だった。宅配は郵便局という官の独占事業であり、民間の運送業者はメーカーなど大口の荷主しか相手にしない。一般家庭の荷物は売り上げが立たないからだ。しかし、規定が細かい郵便小包を不便と感じた小倉は、航空業界のハブ&スポークをヒントに集配システムを構築。その後、多くの同業者が参入する宅配市場を生みだした。
何も新商品や新サービスだけではなく、「伝える」ことで市場を創出したケースもある。ハイエンドのキャンプ用品を製造するスノーピークの山井太は、1996年をピークにオートキャンプ人口が急減するなか、顧客とたき火を囲むイベントで対話を行うと、高い価格の意味、製品に込められた意図など「価値が伝わっていない」と痛感した。顧客と価値を共有するため、山井は問屋の反発を押し切り、流通改革を断行。小売りとの直接取引を始めた。
まだカスタマー・エンゲージメントという言葉がない時代に「人間性の回復」をミッションに掲げてアウトドアブランドを確立。キャンプ先進地の欧米にも乗り込むと、アメリカ人が「スノーピークはラグジュアリー・キャンピングだ」と新しい言葉を使いだすまでになったのだ。
観光のあり方を変えた星野リゾートの星野佳路も、「価値共有」型だろう。「エコツーリズム」という言葉はいまや珍しくないが、彼がその先駆者である。当初はニッチ狙いだった「リゾートリピートモデル」もいまではひとつの市場だ。
そして、山口県の洋品店を垂直統合によるSPAでファストファッションという業態にしたファーストリテイリングの柳井正。世界規模になったユニクロについてはもはや説明は不要だろう。
どのビジネスも元の商売を強みに変えて、地続きの拡張を試み、市場を創出した。苦渋の決断で切り捨てなければならないことも多く、その実行力がある企業こそ「新・中小企業」と言えるだろう。