この戦略文書は、「自由で開かれたインド太平洋の推進」や「地域の繁栄の促進」「インド太平洋の安全保障の強化」など、5つの柱を掲げる。米政府の元当局者は「国務省や国防総省、CIA(米中央情報局)、商務省などがホワイトハウスに提出した紙を、ステイプラー(ホチキス)で一緒にまとめただけの文書だ」と語る。
在米日本大使館の勤務経験者も「例えば、経済分野をみても、米国がTPP(環太平洋パートナーシップ)協定に復帰するのか、中国のTPP加入を阻止するのか、はたまた、日米貿易協定をどうするのか、さっぱりわからない」と語る。日本の米国専門家も「一言で言って、ガッツがない文書。中国と競争するにしても、どこまでやり遂げるのか、その覚悟が伝わってこない」と酷評する。
複数の日米関係筋によれば、米政府は日本政府に対し、事前に戦略文書をまとめる考えを伝え、昨秋くらいから日本の希望についてのヒアリングを続けていた。ただ、経済安全保障などで米国の具体的な戦略が伝わってこなかったという。
関係筋の1人は「日本側は危機感を抱き、もともとあった経済版2プラス2(外務と経済を担当する閣僚による「日米経済政策協議委員会」)構想を早期実現するよう、林芳正外相がブリンケン国務長官に強く申し入れたと聞いている」と語る。両政府は1月22日にオンライン形式で行った首脳会談で経済版2プラス2の創設で合意した。
そもそも、別の関係筋によれば、バイデン政権は現在、「国家安全保障戦略(NSS)」、「国家防衛戦略(NDS)」、「核態勢の見直し(NPR)」などの戦略文書の発表を見合わせている。同筋は「ウクライナ危機が原因だ。こうした戦略文書を公表すれば、危機にどんな影響を与えるかわからないからだ」と語る。
そんななか発表されたのが「インド太平洋戦略」だったわけだ。逆に見れば、この戦略文書は、ウクライナ危機に影響を与えるほどのものではないということらしい。日本政府関係者の1人は「戦略文書が発表された週は、(豪州の)メルボルンでQUAD(日米豪印の安保対話)外相会議、フィジーで米国と太平洋諸島諸国の外相会議、ホノルルで日米韓外相会議があった。この機会を逃したくなかったということだろう」と語る。