経済・社会

2022.02.21 10:30

「もはや超大国ではない」 インド太平洋戦略から透けて見える米国の凋落


バイデン政権は発足以来、外交分野では対中国政策を最重要課題に掲げてきた。そんなさなか、ウクライナを巡る危機が発生した。日米関係筋の1人は「バイデン政権にしてみれば、ドイツやフランスにウクライナ危機への対応を任せたい。最近、ロシア軍の動向に関するインテリジェンス情報を次々流しているのも、危機を解決できない欧州諸国、特に独仏両国への不満の裏返しでもある」と語る。「インド太平洋戦略」を打ち出したのも、対中国外交に集中したいバイデン政権の姿勢を示す狙いがあったのかもしれない。

ただ、バイデン政権が思ったように、事態は進みそうもない。関係筋の1人は「米国がかつてのような超大国だったら、もっと自分がやりたいことをはっきり打ち出していただろう。このようなあいまいな文書しか作れないところに、米国の限界を感じる。米国が日米同盟の重要性を訴えているのも、中国は米国一人の手に負えない相手だと感じているからだろう」と語る。

12日にホノルルで開かれた日米韓外相会議も散々な出来だった。関係筋の1人によれば、共同声明を巡って、韓国が「ロシアや中国に関する文言は入れたくない」と抵抗。日米でなだめすかして、何とか共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性」「ウクライナの主権及び領土の一体性に対する揺るぎない支持」という文言を盛り込んだ。その見返りとして、北朝鮮の非核化については、「完全な非核化(complete denuclearization)」という表現にとどめた。

日米がよく使う「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID・Complete Verifiable Irreversible Denuclearization)」という表現でもなく、北朝鮮という主語もなかった。「検証可能」「不可逆」は、いずれも北朝鮮が嫌がる表現だし、北朝鮮は自国を攻撃できる米国の核兵器の廃棄も含むという意味で「朝鮮半島の非核化」という表現を好むからだ。
 
また、日米韓がそれぞれ発表した報道資料をみると、米韓外相会談では「米韓両長官は」という主語が多かったのに対し、日韓外相会談では「林大臣は」「鄭(義溶韓国外交部)長官は」という言葉が目についた。米国は何とか、「日米韓は一枚岩」とアピールしたいものの、日韓がお互いの立場を主張し合う構図が続いていることが浮き彫りになっている。日米韓外相会議は、北朝鮮に対する新たな政策をまとめられずに終わった。

関係筋の1人は「今のバイデン政権に、そんな余裕はない。このままでは、北朝鮮がICBM(大陸間弾道弾)を発射しても、新しい政策を打ち出せないかもしれない」と話す。

2月21日はニクソン訪中から50年にあたる。当時、米国の対中政策の変更を知らされていなかった日本外務省内には驚きと怒りの声が渦巻いたそうだ。関係筋の1人は「もはや、超大国ではない米国に、50年前のような好き勝手な戦略や政策を打ち出すだけの力はない」と語った。 

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文=牧野愛博

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