実は世界のファッションを支えているのが、日本の地方の繊維やテキスタイルであることをご存知だろうか。パリコレで発表される服地の大半が、日本の地方で地道に生産される素材で成り立っている。逆境のなか「奇跡のリレー」で、作り手である人と人が繋がり、その出会いが「異彩」の化学反応を起こした。
2月23日にアートライフスタイルブランド「HERALBONY」から発売された、最高級ウールでつくられたアートシャツ。日本が誇る小さな大企業を発掘するForbes JAPANの「スモール・ジャイアンツ」プロジェクトから、ヘラルボニー(岩手県盛岡市)と尾州ウール産地のテキスタイルメーカー三星毛糸(岐阜県羽島市)のコラボレーションで生まれた商品のひとつだ。(コラボウェアについてはこちら)
ヘラルボニー取締役CCOの佐々木春樹が、コラボウェアのデザインと制作をディレクションした。アートシャツの生地には、三星毛糸が手がけた最上級ウール「SUPER140s」を使用。通常スーツの生地に使用されることが多いが、佐々木は「最高品質のウールシャツを作ってみたい」と、2021年6月から異例づくしの服づくりを始めた。
ヘラルボニー取締役CCO 佐々木春樹
佐々木を起点にどのようなリレーが生まれたのか。羊でつながるコラボ相関図(下図)をもとに、1枚のウールシャツに込められたクリエイティブの背景を紐解く。
羊でつながるコラボ相関図(2月25日発売の「Forbes JAPAN」スモール・ジャイアンツ特集に掲載)
袖元につけられた「ブランドタグ」の意味
まず注目したいのが、袖元にある三星毛糸の自社ブランド「MITSUBOSHI 1887」のタグだ。コートやジャケットなどにつけられることが多いデザインだが、佐々木はあえてシャツの袖につけることにした。その狙いについて「三星毛糸の技術力と生地のクオリティに非常に感銘を受けました。だからリスペクトの気持ちとそのクオリティを表現したくて」と語る。
実は、佐々木は20代から30代前半の頃、ファッションデザイナーとして洋服をつくるため尾州ウールの産地にはよく足を運んでいた。当時はオリジナルの生地づくりから携わることもあったが、中国生産に切り替わったことで国産の生地を扱うことが徐々に減ってしまったのだ。だが、最近ではある逆転現象が起きているという。
「日本のブランドではなかなか使われなくなったけれど、ヨーロッパのメゾンブランドにクオリティの高さが支持されて日本の生地が採用されるという現象が5、6年前からずっと起きています」
袖につけられた三星毛糸の自社ブランド「MITSUBOSHI 1887」のタグ
三星毛糸もそんなテキスタイルメーカーのひとつだ。アトツギである社長の岩田真吾が自らヨーロッパに足を運び、ブランドに直接売り込むことでLVMHなどとの取引実績がある。一方、通常は発注を受けて手がけた生地を納品するため、今回のコラボのようにアウトプットの服づくりまで並走することはなかなかない。
佐々木の粋な計らいに、三星毛糸の岩田真吾社長は「自分たちからは絶対言えないことですし、そんな発想がデザインに落とし込まれていてすごい」と唸る。「最近は『量を買うから安くしてほしい』ではなく、生産や生地の背景についてもちゃんと見てから買いたいというお客さんが少しずつ増えてきています。今回のコラボでお互いリスペクトし合って一緒にものづくりをしていくことがこれから大事なんだろうなと改めて実感しました」
三星毛糸 岩田真吾社長