インタビューを終えて──街も会社も強くなる秘訣は同じである
更新し続けるのが都市の宿命。その原動力が多様性である──彼はそう語った。
SDGsにD&I。いまのビジネスシーンで声高に叫ばれている多様性を、いち早く行政の世界に取り入れ、日本のムーブメントを生み出す名手。それが渋谷区長、長谷部 健──私の目に彼はそう見えた。
博報堂から政治の世界にキャリアチェンジした経歴をもつ長谷部氏は、取材のなかでこう語った。「北野さん、ここでもまた、『粒揃い』より『粒違い』なんですよ」と。
この「粒揃いより粒違い」という言葉、私も聞いたことがある。その理由は、博報堂が人材戦略として掲げる有名な言葉であるからだ。私も長谷部氏も新卒入社は博報堂だが、長谷部氏は、これに近い考えを区長としていまも生かしている、というのだ。
例えば、渋谷区は異業種から数多くの中途人材を積極的に登用する。新しいプロジェクトを実施する際も、外部のプロフェッショナルを積極的に招くそうだ。なぜ渋谷は外の力を取り入れるのか? それは、まさに渋谷区にとってのお客様、つまり、区民そのものが多様で変わり続けているからだろう。
そもそも、渋谷はいまでこそ日本で羨望される地区だが、実は歴史は浅い。戦後につくられた街であり、何より渋谷をつくってきた人たちは「外から来た」人たちだった。言うならば、その成り立ちはアメリカのような移民が築いた地区だったのだ。
バラバラの背景や出身をもつ人材が集まり、発展した。それが渋谷のルーツだからこそ、新しいものを迎え入れて共生する組織にも多様性が必要である。長谷部氏の考えは、わかりやすく言うとこういうことだ。
さて、私は普段、スタートアップの取締役として事業もつくっているが、結局、つくり手たちが当事者感覚をもてるサービスや事業がいちばん強いのは間違いがない。ほかの人では気づかないような些さ 細さいな点も当事者だからこそ気になるし、粘り強く改善したくなる。「変化や多様なものを、内部に取り入れておくこと」こそ、実はいちばん楽だし、強い組織戦略である、とさえ思うのだ。
言わずもがな、現代は変化が激しく、人々の趣味趣向も多様になった。これだけ変化の激しいビジネスの世界で、企業が強くなり、利益を稼ぎ続けるための秘訣。それは、社内に多様性をもち込み生かすことであるとともに、これを実行できるリーダー自身の行動と素養にあるかもしれない、と長谷部氏の姿を見て私は思った。
北野唯我◎1987年、兵庫県生まれ。作家、ワンキャリア取締役。神戸大学経営学部卒業。博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略顧問などを兼務し、20年1月から現職。著書『転職の思考法』『天才を殺す凡人』『内定者への手紙』ほか。近著は『戦国ベンチャーズ』。