北野:区長として決断に迷ったときは、どう意思決定しますか?
長谷部:まずは、周りの人に相談して決めます。あらゆる分野に担当者がいるのが役所の利点ですから。でも、常に非常事態への緊張感はあります。2年前に台風19号が来たときには初めて避難所を開設しました。それまで区として避難勧告を出したことがなかったので、逡巡したのも事実です。
北野:地下鉄がすべて止まった日ですよね。
長谷部:自衛隊から来ている危機管理対策監から事前に話を聞いていたのですが、「災害時には、とにかく首長の決断力です」と言われました。そういった心構えや準備があったので、周りに相談しながら決断することができました。
新型コロナ対策においても、自分が行政のトップに立ち、長期にわたって地元で感染症の対策をする日が来るとは思いませんでした。もがきながらも、いろいろな新しいことにも取り組めたと、ある意味では前向きにとらえている部分もあります。
北野:そんな経験から、経営層の読者に何をアドバイスしますか?
長谷部:リーダーとして道半ばですが、多様性を重んじることでしょう。区政を運営するうえでも、外部の人の力を借りることは多くあります。また、時にはこちらからも外へ出ていくことが必要だと思います。例えば、住民の方々と話すような機会を積極的につくることで、より多様な人々が交じり合い、開かれた行政になっていく。結果として全体の経験値も上がりますし、行政の運営では大切なことではないでしょうか。単に年功序列で上がっていく組織であっては成長しないと思いますよ。
長谷部 健◎1972年、東京都渋谷区生まれ。渋谷区長(2期)。専修大学商学部卒業後、博報堂に就職。退職後、ゴミ問題に関するNPO法人「green bird」を設立。2003年、無所属で渋谷区議に初当選し、3期12年を務める。15年4月より現職。全国に先駆けて導入した自治体パートナーシップ制度は130自治体にまで拡大(21年10月11日時点)。全国で2277組のLGBTQカップルが利用した(21年9月30日時点。いずれも渋谷区とNPO法人「虹色ダイバーシティ」の共同調査)。