2021年は、時価総額1000億円越えのIPOが5社にのぼる。ビジョナルのほかにも、人工知能開発のエイピア・グループ、データ分析を手がけるプラスアルファ・コンサルティング、クラウド監視カメラシステムのセーフィー、医療機器開発・販売のPHCホールディングスの4社だ。
「多くの大企業からの資金調達で、戦略的に事業会社を巻き込みながらのユニコーン規模での上場は、日本のスタートアップにとって新しいカタチになる」と語るのは、ソニーイノベーションファンド・シニアインベストメントマネジャーの北川純だ。セーフィーは、ソニーネットワークコミュニケーションズ、NEC(NECキャピタルソリューション)、オリックス、キヤノンマーケティングジャパン、関西電力、セコム、三井不動産、NTTグループ(NTTドコモ・ベンチャーズ)と資本業務提携し、高い事業成長をしてIPOした。また、同社は、中長期で保有する機関投資家に一定の株数を割り当てるコーナーストーン投資を実施。香港タイボーン・キャピタル・マネジメント、同ジャンカー・パートナーズ・リミテッドに対して行った。「これまでと同様『仲間づくり』だ。長期的に支援してくれる投資家に株主になってほしかった」(同社代表取締役CEO・佐渡島隆平)。上場時の時価総額は1646億円で、現在は1836億円(同11月10日時点)にのぼる。
エマージング・リーダーの躍進
上場後も成長を続け、資本市場から高い評価を受けている「ポストIPOスタートアップ」も躍進を続けている。「M&Aや戦略投資を積極的に行い、コーポレート・デベロップメントを実行し、成長する『エマージング・リーダー』たちの動きが加速している」と話すのはDNXベンチャーズマネージングパートナーの倉林陽だ。米セールスフォース・ドットコムのようにプラットフォーム化に向けて、スタートアップの買収により、素早く成長を続けていく手法だ。時価総額4688億円の会計ソフト・フリーは4月、海外投資家向けの公募増資で352億円を調達し、資金使途はM&Aだ。同じく、時価総額4329億円のクラウド会計・マネーフォワードは8月、海外投資家に限定した公募増資で307億円を調達。その一部をM&Aに充てる。時価総額4230億円のオンライン名刺管理サービスのSansanなどSaaS上場企業の多くが同様の経営手法をとる。
さらに今年、大勝負を仕掛けたのが、直近1年での取扱高2倍と規模を上回る海外スタートアップ企業を買収した、スポットコンサルティングのマッチングサービス運営のビザスクだ。同社は11月、米国を中心に同業を展開する米コールマン・リサーチ・グループを約1億100万ドル(約112億円)で100%子会社化。プライベート・エクイティファンドのアドバンテッジアドバイザーズやコールマン株主を引受先とした第三者割当増資と借り入れなどで計129億円を調達した。