ビジネス

2022.02.18 13:00

世界が舞台に! 明るい未来を生み出す、スタートアップ・エコシステム進化論


Paidyが手がけるのは、「バイ・ナウ・ペイ・レーター(BNPL)」と呼ばれている、クレジットカード不要のあと払い決済サービス。ECサイトの買い物時にメールアドレスと電話番号を入力すると瞬時に独自の与信が行われ、購入できる。欧米を中心に若年層の利用が急拡大しており、同社のサービスも14年の開始以来、現在は670万口座を突破している。

同社は21年3月、シリーズDで1.2億ドル(約130億円)の資金調達を行った。米資産運用会社ウエリントン・マネージメント、ジョージ・ソロスのソロス・キャピタルマネジメント、香港タイボーン・キャピタル・マネジメントら海外機関投資家から大型調達を行い、時価総額1100億円を超えるユニコーンとなっていた。ペイパルも、19年から、ペイパル・ベンチャーズを通して投資をしていた。こうした海外投資家を中心にした資本政策について、創業者で、代表取締役会長のラッセル・カマーは次のように話す。

「世界で1番いい投資家を探すのは世界基準では当たり前のことだ。日本市場ではBNPL事業がユニークに見受けられているが、グローバルで見るとスウェーデンのクラーナや豪州のアフターペイなど大きなプレイヤーがいる。世界の投資家から見ると、日本市場の潜在的可能性も含めてチャンスがあるという認識だった。日本では見落とされがちな市場だったとも言える」

海外機関投資家などから資金調達をし、直前までIPO(新規株式公開)前提で動くなかでの、M&Aという決断について、Paidy代表取締役社長兼CEOの杉江陸はこう語る。「私たちの目標も『まずは日本でしっかり勝ち切る』だった。日本で類似サービス提供企業に勝つ、世界の競合と競っていくという2つの面で『勝ち切る』ためには、グローバルリーダーであるペイパルと一緒になるのがベストというのが決断のポイントだ。日本市場の重要性、可能性についての共通理解があり、共通目標をもつグローバルなチームとして、より成長を加速できるだろう。それぞれ違うバックグラウンドをもつ3人で『三頭体制』でしっかり組んでいきたい」。

これまでの日本のスタートアップ界における大型M&A事例は、17年8月のKDDIがIoT向け通信ソラコムを200億円で買収した事例までさかのぼる。金額規模を一桁増、かつ、グローバル企業からという質的変化はエコシステムの進化を加速させる。グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの仮屋薗聡一は「日本のスタートアップ・エコシステムの幾何級数的な成長のラストワンマイルがM&Aだった。この『M&Aユニコーン』の登場により、起業家、投資家の視点が変わってくるのではないか。IPO、M&Aの両輪がしっかり回りだすと、日本のスタートアップ、VCに対して海外機関投資家の資金もより入ってくるだろう」と強調する。
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文=山本智之 イラスト=Kouzou Sakai 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.089 2022年1月号(2021/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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