「私たちがサブスクを始めるかどうかの最初のハードルって値段ではないでしょうか? ハフさんは月額2980円のプランも用意しています。宿泊は1泊のみですが、その金額で全国のホテルに泊まれるというのはユーザーにとってはかなりお得感がありますね。
マネタイズの本丸として、月額9000円のプランも置いていますが、まずは低料金も設置してユーザーを囲う。ただ、安ければ良いのではなく、サービス内容とセットでそれがどれほどお得か瞬時に判断できることが重要です」
値段だけではなく、重要なポイントとして次のような点も、渡邊は指摘する。
「ユーザーの生活インフラになれるかどうかが肝心です。利用のたびに購入するのは面倒くさいと思うくらい、自分にとって必要なサービスだとユーザーに認識してもらえること。それにはユーザーとの強烈な信頼関係がないとダメなんです」
例えば、映画館では1本2000円の料金が必要になる。これがネットフリックスであれば月額1000円程度で複数の映画を視聴できる。そこにはお得感があり、なおかつ観賞するインフラとして端末があればどこからでも利用が可能だ。
「サブスク2.0」はデジタルのサブスクが多く誕生した時代であるが、前出のPostCoffeeや服のサブスク「エアークローゼット」、クリーニングの「リネット」など物理的なモノを提供するサービスも業績を伸ばした。渡邊が語る。
「モノのサブスクはフルフィルメント(受注から配送までの一連業務)が肝です。成功している会社はその道のプロのスタッフを入れています。物流のプロ、品質管理のプロを招き入れ、泥臭い作業工程を徹底的にやっています」
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では「サブスク2.0」で軌道に乗せたサービスが、「サブスク3.0」のパーソナライズのフェーズでも勝ち残るためには何が必要なのか。
「ユーザー側からすれば、自らが選択する手間のかからない自動的なカスタマイズはより受け入れられていくでしょう。一方で、自分のニーズから外れたカスタマイズはユーザーには当然ストレスになります。
あくまでサブスクは、事業者とユーザーの信頼関係で成り立つものなので、極めて精度の高いパーソナライズでなければサブスクから即離脱する理由になる。どこまでユーザーニーズを深くほ掘り下げていけるかがキーポイントです」
施設周辺の集客装置に
そのサブスクに新しい「利用価値」が加わるのではないかと渡邊は考えている。そのヒントを昨年からサブスクを導入した東京ドームシティに得たという。
東京ドームシティは、2021年の9月に最大5カ月間アトラクションが乗り放題の「TDCAサブスクパス」の販売を始めた(昨年12月末で販売終了)。大人の1日乗り放題ワンデーパスが4200円に対し、サブスクパスは最大5カ月で5980円という割安価格だ。販売開始1カ月で購入者は1万人を突破した。
すでに東京ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)をはじめとしたテーマパークが、集客施策に「年パス」を発行していることは周知の事実だが、渡邊が注目するのは、その施設周辺へのポジティブな影響だ。