ビジネス

2022.02.17 08:30

「ギアチェンジ」したスタートアップの進化──起業家たちの未来を読む


それらのキーワードとなったのが「クロスオーバー投資家」だ。上場企業と未上場企業の両方に投資・支援をする、上場後も中長期で支える投資家の存在。前述のSmartHRの調達もほとんどがクロスオーバー投資家だ。

ペイディやキャディなどに投資をした、香港の上場株ファンド、タイボーン・キャピタル・マネジメント日本株投資責任者の持田昌幸は「クロスオーバー投資家がレイトステージに参入するのは世界的トレンド。我々も競争戦略として日本株市場を重視するなかで、未上場市場に参入した。成功事例も出始め、いい方向に歯車が回り始めている、面白い市場だ」と話す。同社は19年に未上場市場向けのファンドを設立しているが、数年後には数千億円程度での組成をもくろむ。

また、大企業のCVCによる複数年の投資予算枠が6104億円という日経新聞の報道もあるなど、「大企業の投資金額は全体の半分を超えているのではないか。今後もさらに上回っていくことが予想されることから、『CVC新元年』とも言えるだろう」(グローバル・ブレインCEO・百合本安彦)。

ブリッツスケーリング競争時代


現在、スタートアップ・シーンのトレンドは、これまでの1既存産業のDX、2ディープテックによる新産業創出、3新世代によるニューカルチャー、4連続起業家の挑戦、5社会性と事業性を両立させるインパクト起業家、という方向性から大きく変わらない。その成長に海外マネーによる大型化という構造的変化が組み込まれた形だ。

「成長カーブを描くステージにおける、ギアチェンジによるもう一速の『加速』が起きている」と話すのは、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ代表取締役社長CEOの鑓水英樹だ。その進化から拡張した、新たな動きも出ている。

「CxOクラスの人材の質向上、なかでもCFOは顕著だ。3桁億円調達が当たり前になるなか、IPO戦略や資金調達の手法がアップデートされている」(インキュベイトファンド代表パートナー・村田祐介)。スタートアップへ参画する人材の質向上を象徴したのが、アルバイト仲介アプリを手がけるタイミーが発表した、10年間ディー・エヌ・エー社長を務めてきた守安功の取締役COOへの就任だ。それに加えて、21年には、大型調達したスタートアップによるM&Aも起き始めた。スニーカーのフリマアプリを運営するSODAが、競合サービスを展開するモノカブを買収した。

2022年のスタートアップ資金調達金額は、さらに増加すると予想され、1兆円の壁を超えると予測をする有識者も出てきている。グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの高宮慎一は次のように話す。

「上場前の規模感、スピード感が資金が潤沢となることでより拡大していく。スタートアップ側の競争が激化し、資金の力で一気にスケールするまで全速力で走り切らなければ競争に振り落とされる『ブリッツスケーリング(飛躍的な成長)競争』時代を迎えるだろう。スタートアップの戦い方、ゲームのルールが明らかに変わった」


文=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.089 2022年1月号(2021/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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