岐阜県が推進してきた「G.A.S.事業」
私が岐阜県の観光推進局長であった2009年以来、県の海外戦略の基本は、観光と飛騨牛などの食、そして県産品のモノづくりを一体化したプロモーションの実践だった。そのために、現地に継続的な販売拠点をつくることに重点を置いていた。
2020年1月に米国ロサンゼルスでの岐阜県フェアの事前調査に行ったときも、現地の観光事業者や、政府機関、メディア、そして飛驒牛を扱う高級レストランへの働きかけとともに、美濃焼などの器類を販売してもらえるビバリーヒルズの高級ショップとの打ち合せなども行っていた。
こういったレストランやショップの開拓事業は、県では、Global Antenna Shop(グローバル・アンテナ・ショップ)事業、通称「G.A.S.事業」として庁内の関係部署のメンバーとともに施策化し、2009年よりターゲット国での開拓を始めた。
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そして現在、欧州、米国、アジアなど世界8カ国13店舗に、県内企業約100社のプロダクトを取扱うG.A.S.認定店があり、食の分野では、世界12カ国、51店舗のレストランが、飛騨牛などを定番メニューとして扱う海外推奨店として認定されている。
ちなみに、それぞれのショップやレストランでは、単に県産品を販売したり飛驒牛のメニューを提供したりするだけではなく、それにまつわる「物語」も付与するようにしている。例えば、レストランなら器は美濃焼、ランチョンマットは美濃和紙、岐阜県の地酒を提供し、各種県産品のバックグランドストーリーも含めた観光プロモーションを行う。
このように観光、食、モノを一体的にアピールするというスタイルが鉄則で、そのためには、お金を積んで義務的に岐阜県のプロモーションを行うのではなく、本気で「岐阜県ファン」になってプロモーションをしてくれるショップやレストランを丁寧に選んできた。
その選択プロセスこそが、岐阜県の海外戦略の真骨頂であり、サステナブルツーリズムにも匹敵する要素だと私は考えている。
そんなわけで、各国のG.A.S.やレストランにかかわる人たちとの深いご縁を大切にすることは、言い換えれば、コロナ禍で日本に居るしかない私たちに変わり、現地の彼らに「岐阜県プロモーション」を進めていただくため、互いのできることを行ってきたということになる。
コロナ禍終息後の観光を見据えて
G.A.Sショップで、この2年間に実施した事例をいくつか紹介しよう。
フランスの東部、コルマール市にあるショップでは、2020年11月から約1カ月間、実店舗とオンラインショップでの岐阜県フェアを実施した。そこでは美濃焼や刃物などの県産品とともに、地酒を販売していただいたのだが、特筆すべきは、期間中、オーナー自身がオンラインでの日本酒セミナーを実施してくれたことだ。
日本的に言えば「オンライン飲み会」とセミナーを掛け合わせた地酒のテイスティングイベント。これが大好評で、なんと150万円近く売り上げた。まさにオーナーの「岐阜愛」の賜物だった。
この店では、翌2021年も同様のイベントを実施していただき、評判が評判を呼んだ。フェアに合わせて、JETRO(日本貿易振興機構)協力のインフルエンサー事業として、ミス・インターナショナル・フランス代表がショップを訪問し、その様子をSNSに投稿してくれるというおまけまでついた。
こうした岐阜県フェアは、香港やシンガポールなどのほか、ビバリーヒルズにある高級ショップでも(オンラインショップのみだが)実施した。オンラインショップには、美濃焼の丼をメインにPRや販売をする、ビジュアル的にも素晴らしい岐阜の特集ページが開設された。