ライフスタイル

2022.04.09 12:30

十字架で「グッドデザイン賞」。施主を唸らせた『90度回転』の意匠

[鎌倉雪ノ下教会 墓地]実施設計時図面(寸法入)


墓地にも「祝祭感」があっていい


実は今回、雪ノ下教会の墓地改装委員会からは、「十字架の抽象化」のほかにもう1つの難題が提示されていた。日本基督教団のコンセプトでもある「十字架の背後にいつも私は蘇りの光を見ている」を主軸にしてほしい、というものだ。
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「湘南キリスト教会でのご婦人の表情が思い出させてくれたとおり、クリスチャンにとって、十字架の背後にあるのは復活の希望そのものです。だから墓地にもなるほど、キリストが復活した日、という喜びの明るさがあるべきです。

保坂と2人でご婦人の記憶を語り合った直後に、『じゃあ、これはどうだろう?』と彼が見せてくれたスケッチに描かれていたのが、空中に浮かぶ十字架でした。そこには悲しみの代わりに、燦々と眩しい光がたしかに感じられた。ああ! これで彼は、あらゆる『施主』さんのための墓地の入り口に立ったなと思いましたね」


写真:Koji Fujii / TOREAL
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合葬墓[鎌倉雪ノ下教会 墓地]が完成して2年が経つ今、近所の人はここを散歩コースにしていたりもするという。十字架は、地元の人たちにも愛されるモニュメントに育ってきているのだ。

「教会の方たちも、ちょっと散歩がてらおじいちゃんに会いに行こう、いいことがあった報告に行こう、悲しいことがあったことも話してみよう、そんなふうに訪れてくださったらいいですね。

夜には、月の光が十字架を照らしてコンクリートを輝かせます。日中、日光を受けて眩しく輝く十字架はもちろんですが、月光に輝く十字の形も、お墓に入った人たちの目印になっていればうれしいですね。満月の夜には、限られた時間ですが、大地に十字の大きな影が落ちます」

最後に保坂氏は次のように話してくれた。

「ある信者さんのご家族で、以前は教会墓地には入りたくないと言っていた方が、この墓地を見て『これなら入りたい』と言ってくださいました。この共同墓地には2000人から3000人の人が眠れるようになっているといいますから、これからもこの十字形が天空からの亡き人の視線の目印となり、ご家族の方もそこに眩しい『蘇りの光』を見てくださるといいな、と思います」


合葬墓 [鎌倉雪ノ下教会 墓地]
設計:保坂猛(保坂猛建築都市設計事務所)
構造設計:名和研二(なわけんジム)

保坂 猛◎1975年山梨県生まれ。横浜国立大学卒業後、同大学院在学中から設計活動を始める。現在、保坂猛建築都市設計事務所代表、早稲田大学芸術学校准教授。自然を息づかせる建築、自然光や直射月光を生かした光の建築などを数多く生み出す。主な作品に『LOVE2 HOUSE』『ほうとう不動』『湘南キリスト教会』など。2013年、建築家の登竜門である「日本建築家協会新人賞」受賞、また〈ほうとう不動〉で日本建築仕上学会賞などを受賞。ほかにも〈DAYLIGHTHOUSE>で2013年JIA新人賞、神奈川建築コンクール優秀賞、イギリス、ドイツ、オーストリア、など国内外での受賞多。


写真:Thee Ned’s

保坂 恵◎保坂猛建築都市設計事務所コミュニケーション・マネージャー、広報担当。プロの「建築家の妻」として夫の事務所を切り盛りして17年、施主らからの信頼は篤い。栄養士でもある。とくに好きな世界建築はコペンハーゲン郊外、ウッツォンのバウスヴェア教会。「趣味は保坂猛」。


写真:Thee Ned’s

文=石井節子

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