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2022.02.15

宇宙旅行を阻む「3%」の壁 岩谷技研のロケットを使わない挑戦

実験で打ち上げた気球から撮影した地球の姿(提供=岩谷技研)

国家ミッションの枠を超え、レジャー目的などにフォーカスをあてた民間企業による宇宙開発が盛り上がりをみせている。なかでも特に話題になるのが「宇宙旅行」だ。

ZOZO創業者の前澤友作をはじめ、著名人がロケットで宇宙を旅したニュースが世界中から次々と報じられている。

とはいえ、宇宙旅行には巨額の費用と特別な肉体的・精神的鍛練が必須となる。一部の富裕層や“選ばれた者”の世界であることは否めない。

また事業者にとっては「安全性」の壁が立ちはだかる。ロケットの打ち上げから帰還にはわずかながら墜落の可能性を伴うのが現状だ。


そんな現実を塗り替えるべく事業展開するのが、2016年設立の宇宙スタートアップ・岩谷技研。

同社は、「誰もが特別な訓練をすることなく、宇宙の“入り口”まで自由に旅できる世界を作る」ことをミッションに掲げる。

北海道札幌市に拠点を置き、地球を一望できる成層圏までの宇宙旅行(高度25キロ)の商用化を目指す。乗り物として開発を進めるのは、ロケットではなく、特殊なプラスチックを使ったガス気球だ。

宇宙旅行
提供=岩谷技研

18年には気球に生きた魚の入った気密水槽を乗せ、高度25キロの打ち上げと帰還に成功しており、23年には有人飛行の実証実験も計画。ロードマップを着実に前進させている。

「技術的な課題はいくつかある。ただ順調に開発を積み重ねていけばすべて乗り越えていけると確信しています」

取材の冒頭、CEOの岩谷圭介は商用化に向けた技術開発が順調に進んでいることを強調。その科学者らしい冷静かつロジカルなしゃべり口調からは、プロジェクトに対する絶対的な自信をのぞかせる。

岩谷技研
CEOの岩谷圭介(提供=岩谷技研)

「宇宙から地球を眺めることで、それまでになかった考え方や視野を得ることができるかもしれません。目標はひとりでも多くの人に宇宙体験を提供すること。そのために船を使った世界一周旅行くらいにはコストを下げていきたいと考えています」

180回の実験成功 それでも油断しない


着実に技術開発を進める岩谷技研が今後の課題として挙げるのは、「ヒト」、そして「組織づくり」である。岩谷は続ける。

「私たちは安全性を徹底的に高めるために技術開発を続けています。精度は順調に高まっていますが、問題はスタッフ全員が安全性や技術に対する情報を共有し、ノウハウを積み上げ続けていけるかどうかです」

安全性においては、すでにガス気球を成層圏まで飛ばし帰還させるという実証実験を180回以上成功させてきた。そこに自信をみせる反面、「徹底的なヒト・組織づくりを通じてこそ自社のミッションを達成できる」と油断は決してみせない。

経営企画本部長を務める仲雷太も岩谷の考えに同意。加えて安全性をどう広報し周知していくかも課題のひとつだと話す。

「より簡単に宇宙に行けるようになると、当然ですが多くのユーザーから不安や疑問が湧きあがると思います。開発者やエンジニアはもちろん、営業や広報などメンバー全員が危険なイメージを払拭するために、開発の進捗状況、日々の実験結果、現時点で想定されるリスクなどを包み隠さず対外的に公開し続けていく必要があるでしょう」(仲)

長年突破できない技術的限界値


こうした宇宙旅行の安全性を語るうえでは「3%」という数字がキーになる。
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文=河鐘基(Forbes JAPAN オフィシャルコラムニスト) 編集=露原直人

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