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2022.02.15

宇宙旅行を阻む「3%」の壁 岩谷技研のロケットを使わない挑戦

実験で打ち上げた気球から撮影した地球の姿(提供=岩谷技研)


「ロケットが墜落せずに地上に帰還できる割合は97%。これは人を乗せず、実験用の機器などを運ぶのであれば十分な数字です。また宇宙飛行士による宇宙空間での業務は国家プロジェクトであるために、3%という数字は許容されてきました。

しかし、レジャーとして宇宙を考えるとこの数字は許されません。例えば、地球上の全人口が車を使ったとしましょう。毎回3%の割合で死亡事故が起こったとしたら、1年後には人口の大半がいなくなることになるんです」

3%は、多くの天才たちが長い年月をかけ取り組んでも、技術的限界値として突破できていないというのだ。

安全性のポテンシャルがない以上、ロケットによる宇宙旅行は実現しない。それが、岩谷がガス気球に宇宙旅行の可能性をかける所以だ。

「現在開発中の気球は、原理的に墜落が起こりません。特許を申請しており、事故発生確率を0.1%以下にすることを目指しています。ロケットにはロケットの意義があるため否定するつもりはありません。しかし、安全性、身体負荷、運航頻度などはそのままコストに跳ね返ってきます。だからこそ、気球が宇宙旅行に最適であると考えています」

岩谷技研
実験で打ち上げた気球(提供=岩谷技研)

通常、ロケットの打ち上げには数十億円以上の費用がかかるのに対し、岩谷技研はガス気球1機あたりの運用コストを、5000万円以下に落とすことを目指す。そして搭乗人数を増加させることで、1人あたりのコストを下げる計画だ。26年頃には6人乗り、29年頃には20人乗りを目指し、最終的に50人乗りが実現した際には1人当たりのコストは100万円台となる。

岩谷技研に限らず、競合他社や他のレジャー系宇宙ベンチャーが存在するが、岩谷は「それほど強く意識を向けていない」と話す。

技術開発の進捗具合や特許の数、実際に飛ばして帰還させた試行回数の多さなどで他社の追随を許さないからだ。

むしろ、国内外始め多くの企業が参加し市場への関心が高まることを自社にとってのポジティブなことと捉える。

「現在、弊社の拠点は北海道、福島、そして沖縄にあります。そこで働く、気球やキャビンの設計、実験・製造設備の開発、安全検証などを担う機械工学系の人材をいかに獲得していくかも当面の課題です。

多くの人材とともに、誰もが安全に宇宙に行ける時代を拓くというミッションをひたむきに実現していきたい」


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文=河鐘基(Forbes JAPAN オフィシャルコラムニスト) 編集=露原直人

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