こうした未利用魚は総水揚げ量の約30〜40%とされるが、漁港によっては水揚げされた魚の約9割に当たることもあるという。
水揚げされた未利用魚
「食べられる魚を廃棄してしまうのはもったいない」。そんな思いから、未利用魚を有効活用するスタートアップ「ベンナーズ」(福岡市)を立ち上げたのが井口剛志だ。
同社は、未利用魚を漁師から直接購入し、加工して販売するサブスクサービス「Fishlle!(フィシュル)」を運営している。2021年3月のスタートから順調に会員数を増やし、2022年1月には伊勢丹立川店でポップアップを行うなど、注目を集めている。
「水産業には関わるな」と遺言
祖父母が水産加工業、父親が魚卸業を営む漁業一家に育った井口。そんな環境で育ちつつも、漁業業界で起業することはまったく考えていなかったという。それは、今はなき祖母の遺言の影響でもあった。
「遺言の内容が、『お前は絶対に爺さんや父さんのような商売に関わるな』だったんです。2人の苦労を知っているからこそ、大企業に就職しなさいと言われました」
その言葉を守り、米ボストン大学で経営学を学びつつ就職活動に励み、無事に内定を獲得。「まずは社会にもまれてから、将来的に自分が好きな分野で起業できたら」と青写真を描いていた。しかし、ある授業によって、そのイメージは塗り替えられた。
「大学3年次で受けたプラットフォーム戦略に関する授業で、『プラットフォーム型のビジネスモデルは、情報の不均衡性が生じている業界でこそ生きてくる』ことを学びました。そのとき頭に浮かんだのは、家業の水産業だったんです」
水産業は、生産者から消費者に至るまで多ければ7つの仲介業者が絡み、ブラックボックス化している。売り手にも買い手にも好ましくないその流通構造を、プラットフォーム型ビジネスによって改革できるのではないかと考えたのだ。
加えて、アントレプレナーシップを専攻する中で学んだ「起業とは誰かの課題を解決することであり、その解決する課題が大きければ大きいほど、社会に与えるインパクトが大きくなる」という起業家精神にも感銘を受け、内定は辞退し、水産業の課題解決のために起業の道を歩み始めた。
「漁業を取り巻く問題は非常に深刻で複雑に絡み合っています。ただ、誰かが手をつけなければ状況は変わらず、もし解決できたら社会的なインパクトはとても大きい。一度しかない人生、それなら挑戦してみようと思いました」