ビジネス

2022.02.15

「未利用魚」のサブスクで話題。遺言に反して起業した26歳の挑戦

ベンナーズ創業者の井口剛志


足を運んで知った「未利用魚」の存在


当初から「未利用魚」に注目していたわけではない。大学卒業後の2018年4月、23歳の時にベンナーズを設立すると、真っ先に取り掛かったのはプラットフォーム型ビジネスだった。

ブラックボックス化した流通構造にメスを入れるため、漁業者と小売店が直接売買できるサイトを立ち上げ、漁業者側が商品と価格を設定し、販売する仕組みを構築。井口は、売り手となる漁業者を集めるため、全国の漁協や養殖業者、漁師のもとを回った。

その際、頻繁に耳にしたのが「魚の一匹あたりの単価を上げてもらえるのはすごくありがたいけれど、もうちょっとボリュームをさばいてほしい」という漁業者の悩みだった。



「深掘りして聞くと、食用にならないたくさんの魚が行き場を失っているという話で、そのとき初めて未利用魚の存在を知ったんです」

その後2020年にはコロナ禍に入り、水産業にとって大口取引先となる外食産業が大打撃を受けた。未利用魚とされていなかった魚ですら、廃棄されていく状況となった。

井口は、「思い切った事業転換になるけれど、このタイミングで新しいことを始めよう」と決意。そうして、ベンナーズにとって2番目の事業となる「フィシュル」が生まれた。

新しい魚の食べ方も提案


フィシュルの製品は、九州で水揚げされた未利用魚を、獲れたその日のうちに自社工場で加工・瞬間凍結した冷凍便で届く。鮮度や旨みは、流通している食用魚と変わらない。

井口は全国各地の漁港まで直接足を運び、漁師や漁協と情報交換を行って、既存の商流のみならず新規ルートも開拓し、あらゆる経路を駆使して魚を買い付けている。

ターゲットは若い共働き世帯。家庭で魚をさばく手間を省けるよう、「(お皿に)のせるだけ、やくだけ、ゆでるだけ」の簡単調理で食べられるように工夫した。解凍するだけで食べられるタイプもある。

ラインナップは「煮切り醤油漬け」「中華風カルパッチョ」「ハーブオイルコンフィ」など14種類。未利用魚の調理法や味付けの考案には、幼いころから多くの魚を食べて育った井口も参加している。



「魚は食べ方が限られていると思われがちですが、和洋中、様々なアレンジで多様な食べ方を提案していきたい」と井口。魚離れが著しい日本の食卓の“食文化”の底上げも視野に入れている。

販売チャネルは原則サブスクで、毎月あるいは隔月の定期便で届くスタイル。価格は6パック4200円、10パック6480円、16パック8980円(各税込)となっている。
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文=小谷紘友 取材・編集=田中友梨 撮影=小田光二

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