アカデミー賞、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」が大本命と言われるワケ

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アカデミー賞のノミネート作品が発表された(最後に作品賞と監督賞の一覧あり)。注目の「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督)は、作品賞や監督賞をはじめ4部門で候補となり、現地時間の3月27日に行われる、受賞作が決定する授賞式への期待が高まっている。

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作品賞への日本映画のノミネートは、94回のアカデミー賞の歴史のなかで初めてのこと。監督賞に関しても、勅使河原宏(1966年「砂の女」)、黒澤明(1986年「乱」)に次いで史上3人目。これだけでもかなりの栄誉とも言える。

全米批評家協会賞を筆頭に各地の映画賞で軒並み作品賞を受賞してきた「ドライブ・マイ・カー」は、アカデミー賞の投票でも多くの支持を得ることも想定され、もし受賞ともなればノーベル賞級の快挙と言ってもいいかもしれない。

そのアカデミー賞で、作品賞のほか、監督賞、主演男優賞など最多の11部門12ノミネートされたのが、ネットフリックスが配給し、現在も配信中の「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(ジェーン・カンピオン監督)だ。目下のところオスカー本命との声も高く、筆者も「パワー・オブ・ザ・ドッグ」は作品賞に相応しい作品だと考えている。

一触即発の緊張関係のなかで暮らす4人



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「パワー・オブ・ザ・ドッグ」は、1925年のアメリカ北西部、モンタナ州が舞台だ。牧場を共同経営する何ごとにおいても対照的な兄と弟、そこに新たに加わる弟の妻と彼女の息子。美しい大自然を背景に「四者四様」の相克と確執、愛情と憎悪が、濃密に描かれていく心理劇だ。

兄のフィル(ベネディクト・カンバーバッチ)は、東部のイェール大学で古典を学んだ秀才だが、いまは故郷に戻り、荒々しいカウボーイたちを率いて牛の牧畜をしている。一方、弟のジョージ(ジェシー・プレマンス)は、兄からは「太っちょ」と呼ばれ、牧場では渉外や事務仕事を担当している。

風呂に入らず男らしさを誇示するカウボーイスタイルの兄と、いつもスーツを着て小綺麗にしている弟。兄は弟に対してはいつも高圧的な態度をとるが、2人は実は同じ部屋でベッドを並べて寝起きしている。


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ある時、牛の放牧の途中で立ち寄った宿屋で、フィルはテーブルに置かれていたペーパーフラワーで煙草に火を点ける。それは宿屋のマダムであるローズ(キルスティン・ダンスト)の息子ピーター(コディ・スミット=マクフィー)が手づくりしたもので、フィルは給仕をしていた彼にも毒づく。

それを見ていたローズは悲嘆の涙に暮れるが、兄の見ていないところで、弟のジョージが彼女を慰める。登場人物たちの出会いの場面だが、早くもこの心理劇での4人の関係性が如実に明らかにされる。このように作品は緻密に計算され尽くしたシーンが積み重ねられながら描かれていく。
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文=稲垣伸寿

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