「便利さはある程度キープして、自然に触れたい」のか。
あるいは、「どっぷりと自然の中に浸かりたい」のか。
今回紹介する世羅町は、後者の人におすすめしたいまちである。
広島県のほぼ中央に位置する町。広島空港のある三原市に隣接しており,空港へは車で30~40分ほど、広島市内へも1時間半弱で到着する。駅伝やマラソンファンであれば、一度は名前を聞いたことがあるまちもある。
梨、ブドウ、米、アスパラガスなど農産物の一大生産地で、ワイナリーも在る。「花とフルーツの町」として知られ、花農園や果樹農園があるため、春や秋は観光客でにぎわうまちだ。
この世羅町もサテライトオフィス誘致の取り組みや移住定住に関する施策を推進している。移住してくる人や企業を世羅町ではどのようにサポートしているのだろうか。そして仕事と密接した暮らしが、ここではどのように叶うのだろうか。
2015年に世羅町に移住して「Cafe Repos(カフェルポ)」を開いた西原さんに、開業までのストーリーと世羅町での暮らしの魅力について伺った。
移住・開業を支えてくれた、“おせっかい”なサポートと見守り
世羅町の中心にある町役場から車で15分、田畑に囲まれた場所にあるCafe Repos。築145年ほどの古民家の古き良きところを残したまま改装したカフェだ。地域で獲れた野菜やお米、自家製の味噌などを使った料理を提供している。
「Repos」はフランス語で「休憩」「休息」という意味だが、足を踏み入れるとその名の通り、ホッとする雰囲気に満ちている。
「お客さまには、とにかくゆっくりしていってほしいんです」
そう話す姿が印象的なのが、Cafe Reposの店主・西原さん。もともと福山市でソフトウェア開発会社や建設会社に勤めていたが、お菓子作りや料理が趣味で「いつかカフェを開きたい」と思っていた。
あるとき、世羅町に良い空き家を見つけた西原さんは、すぐにピンと来た。「世羅町なら、ゆったりと働き、ゆったりと暮らすことができそう」と感じ、妹さんとともに移住を決意する。
移住やカフェ開業にあたって、西原さんの心強い味方となったのは、振興区長の方だった。
「移住前から、地元の方と顔合わせの機会を作ってくれたんです。引っ越して来た後は、一緒にご近所さんへの挨拶回りをしてくれました。開業にあたって利用できる補助金制度も探して提案してくれたり、商工会の方を紹介してくれたりと、たくさんサポートをしていただきました」
お店オープンの際には、観光協会がSNSでPR。地域の方もチラシを率先して配ってくれて、顔を会わせば「大丈夫ですか?」とカフェの様子を気に掛けてくれた。お客さんが増えてきてからは「よかったね」と自分のことのように喜んでくれたという。
「とにかく温かく迎え入れてくれたので不安は無かったです。『おせっかいを焼きすぎても迷惑だよね』と言われましたが、むしろありがたかったですね」
Cafe Reposの外観
手間を掛けることや「苦労」さえも愛しい。心が豊かになる日々
世羅町での暮らしに慣れてくるにつれて、西原さんは時間の使い方や生活の術を体得してきた。西原さんの自宅からは、コンビニに行くにも車で20分。都会の生活と比べれば不便な面もあるが、それさえも楽しんでいる姿が印象的だ。
「世羅では、夜空に輝く満天の星を見上げたり、川のせせらぎに耳をすませたり、野に咲く花を眺めたりすることができます。世羅に来る前は、職場と家の往復で疲れ切っていました。けれど、今は少し時間があれば、ボーッと外を眺めてみたり、草むしりをしたり。その時間が楽しいですね」
近所の方とも積極的に交流してきた西原さん。人生の先輩から、さまざまな生きる知恵を教えてもらっている。
「野菜を植える時期や、猪や鹿から野菜を守る方法を教えてもらっています。動物に畑が荒らされることは『苦労』に違いないのですが、周りの方々と助け合いながら生活している感じが心地良くて、心豊かに過ごせています」
こうした日々を送れることはとても魅力的だ。一方で生活の利便性も気になるところ。その点、町内にスーパーやドラッグストア、ホームセンター、ファミリーレストラン等もあるから心配ない。さらに仕事で出張がどうしても必要となった場合にも、新幹線が停まる三原駅には車で40分、同様に福山駅にも50分で着く。いずれの駅を利用しても、早朝に世羅を出れば昼前には東京に到着できる。
さらに世羅町には余暇の選択肢も多い。世羅高原農場や、せらワイナリーをはじめとした町内の観光施設、周辺地域にはゴルフ場も多数ある。
たまに海を眺めたくなったら尾道までは車で40分。そのすぐ向こう側には瀬戸内しまなみ街道があり、海への週末ドライブも叶う。
美しい自然と山々に囲まれる世羅町は、実は海や都市部にもアクセスの良い環境だと言えるだろう。
「不便を楽しめる人」が住みたいと思うまちであり続けたい
まちの未来の担い手を増やすためにも、移住施策に熱心な世羅町。交流イベントも活発だ。住民の自主的なまちづくり活動に参加して、まちの雰囲気を体感することができる。
一人ひとりへの熱心なサポートの成果もあって、お店を開いたり、農業に取り組んだりと、世羅に移り住み新しいチャレンジをする若者も増えてきている。
西原さんのような個人の創業支援だけでなく、企業への支援にも世羅町は積極的だ。そんな中、ネット環境の整備などサテライトオフィス誘致の取り組みも始まった。こうした流れを西原さんはどう捉えているのだろうか。
「素晴らしい取り組みだと思います。ただ、世羅の良さは守り抜いてほしいという思いがあって。『不便を便利に』と考えるより『多少の不便も楽しめる人が住みたくなる』まちであり続けてほしいなと個人的には思っています」
都会での生活に疲れた心を癒してくれる、世羅の自然。これまでの生活スタイルや自分のこだわりに固執せず、まずはここでの生活リズムに身を任せて欲しい。
大きな空や川や花をすぐそこに感じながら働くこと。地域の方との関わり合い。まちが一丸となってサポートしてくれる世羅町でのサテライトオフィス開設ならば、移住する従業員の人生がより豊かになる。そんな強い予感を覚えた。
世羅町は、現地でお試し勤務や生活周辺環境の視察ができる、法人向けのプロジェクト「チャレンジ里山ワーク」に参画している。
サテライトオフィスの開設にあたってのオフィス改装費や備品購入費に加え、開設後の賃借料や通信回線使用料にも補助があり、支援に力を入れている。拠点の地方移転やサテライトオフィス開設を検討している企業も、ぜひ選択肢に含めてみてほしい。