木造住宅の設計士として働いていた大島が、森を中心とした村づくりに関心をもち、夫と共に訪れたのが、村の面積の95%が森林である西粟倉村だった。のちに会社ようびを立ち上げる夫は移住を即決。大島は、村のひのきを使った家屋の設計を依頼されるようになり、ようびの建築部門を立ち上げる。
しかし16年冬にようびは全焼。「工房も完成した商品も材料もすべて焼失。ぼうぜんとしていたときに助けてくれたのが、地元の仲間や学生時代の友人、家具を購入してくれたお客さん、SNSを見て手弁当で東京から駆けつけてくれた学生さんなど、村内外の多くの人たち。彼らと希望をもつことで乗り越えられた」。
仲間と共に理想としていた木造の新工房を完成させると、西粟倉村の幸せと発展を願う気持ちがより強くなる。
「村内外の人たちと力を合わせることでみんなの願いは叶うんです。例えば、子供たちの新しい学びの場を作りたい、大変な草刈りを楽しいものにしたいといった『こうだったらいいのに』は、テクノロジーを活用すれば可能なんです」。
西粟倉むらまるごと研究所では、村の地形の3Dデータや再生可能エネルギーの発電量など多様なデータをオープンデータ化。データを活用できる企業とのマッチングをしながら村の課題整理と解決を進めている。
「高齢化が進み労働力が減少するという、どの地方も抱える課題をどう解決していくか、どうビジネスにつなげていくか。西粟倉村は実証の場として最適です。それはこの村には、まずは何でもやってみよう、やらせてみよう!というマインドが根付いているから。ここから新たなビジネス、そして未来が生まれる。地方創生の新しいあり方を発信していきます」。
おおしま・なおこ◎大阪府生まれ。滋賀県立大学生活デザイン専攻卒業後、高山市で住宅などの設計に従事。そこで出会った大島正幸と2011年に結婚し、14年に会社ようびに合流、建築部門を立ち上げる。16年に社屋が全焼。18年にツギテプロジェクトにより新本社を再建。20年、一般財団法人西粟倉むらまるごと研究所を設立。