高梨沙羅選手だけじゃない。メイクは「自分で自分を整える」手段

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2月5日、北京五輪のスキージャンプ女子の個人ノーマルヒルに出場し、4位と大健闘した高梨沙羅選手。それと同時に目にしたのが、女性アスリートに対して「メイクにうつつを抜かしていないで練習しろ」との批判があるというニュースだった。

まったく何を言っているのだろう? と思っていた直後、高梨選手に、スーツ規定違反での失格処分が降りかかった。2月7日に行なわれたスキージャンプ混合団体で、高梨選手だけでなく、オーストリア、ドイツ、ノルウェー(2人)の計4チーム5名の選手が、ジャンプ後に失格の処分となったのだ。

抜き打ちで行われるというこのスーツ規定による検査。検査はジャンプの前にすれば良いとか、もっと規定を明確にしておくべきだとか、ギリギリの大きさを攻めたのか? などという声も聞こえてきた。筆者はここで、メイクのことを考えた。

最大限の力を発揮して飛び、よい飛距離を出したと思った直後の失格。高梨選手はそれでも、2本目を気丈に飛んだ。精神的にもギリギリの状態で、自分自身に対して「大丈夫」と思えた理由のひとつには、メイクがあったのではないかと思うのだ。

メイクは雑音を消去するスイッチ


筆者は主に企業トップのコンサルティングを手掛けているが、対象者が女性の場合はメイクのアドバイスを行い、男性の場合はグルーミングについてのアドバイスもしている。服とは違い、自分の肌に自分で触れながら、自分を整えていく作業だ。

自分が立つ場を意識しながらその作業を完了させると、そこにはそれまでの自分とは違う、表情の引き締まった自分がいる。特に、女性の場合は、最後に唇に色をほんのり刺したのを鏡で確認する瞬間、意識が切り替わることが多い。男性の場合、それはネクタイをシュッとしめた瞬間だ。

“指先”という敏感な感覚を使い、人の内面情報が最も現れる“顔”の皮膚や筋肉に触れながら、自分自身を調整していくのがメイクでありグルーミングだ。よい刺激を脳に与えるルーティーンとも言えるだろう。これでスイッチがオンになり、ゾーンに入るのだ。

調整が完成した自分は「良い状態」であり、「ダサいとか、垢抜けないとか言われたらどうしよう」という雑念にとらわれることがなくなって、本来注ぐべきことだけに意識を集中できる。また、「良い状態の自分」として自信を持つことができる。雑音を消去するスイッチになるのが、メイクであるとも言える。言ってしまえば儀式の様なものなのだ。

そう考えれば、メイクは選手をメンタル面で支え、そのモチベーションを高める大事な練習の一部ともとれる。「メイクしている暇があったら練習しろ」という発言は、おそらく、メイクや自分の身だしなみを整えることが、見た目だけ良くしてこびていると思っているから出てくるのだろう。
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文=日野江都子

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