VMwareは、JPモルガンや世界100以上の銀行からなる銀行団による融資において、最も価値のある担保資産だった。その価値はデルによる買収後の数年で500億ドルも上がり、おかげでデルとダーバンは同社を自分たちの“ATM”にすることができた。
18年には、VMwareから配当金のかたちで 90億ドルの現金を引き出し、同社のトラッキングストックを買い取ろうとした。当初、株主たちが保有するトラッキングストックに対し、1ドル当たり60セントを支払うとしていたが、物言う投資家であるエリオット・マネジメントとカール・アイカーンの激しい抗議を招いた。
その後、トラッキングストックはより公平な1ドル当たり80セント、総額140億ドルで買い取られることになった。そして、デルは自身の会社をデル・テクノロジーズの名称で株式公開した。
新会社の株の取引は、最初は芳しくなかった。彼は、前進するいちばん簡単な方法はVMwareを完全分社化することだと判断した。そうすれば株主は喜び、自分の資産もはるかに大きくなる。今年4月に発表したこのスピンオフの情報を市場が消化するにつれデル社の株価は急騰して価値は2倍となり、デルは200億ドルを稼いだ。
彼はVMwareからさらに90億ドルを配当金のかたちで引き出し、買収時の負債の返済に充て、保有する資産のすべてを担保にして得た借入金を償還していくつもりだ。
パンデミックも追い風に
LBO以前、デルの自社株の持ち分は15.6%、その価値は40億ドルに満たなかった。しかし今後は、デル社株の52%、VMware株式の42%を保有することになる。デル社の持ち株の価値は400億ドルだ。マイケル・デルはテック業界が向かう方向を、決定的な瞬間に正確に読み切ったのだ。
パソコンは、労働者たちがパンデミック中にホームオフィスを構築するようになって注文が急増。第1四半期の売り上げは前年同期比20%増の133億ドルとなった。さらに、アマゾン ウェブ サービス(AWS)やマイクロソフトのアジュールといったパブリッククラウドは、あれほどの成功を収めているにもかかわらず、IT界を乗っ取ることにはならなかった。そしてEMCの買収により、デル社はデータセンターのインフラ整備大手となった。この分野はテック部門でも有数の成長市場なのだ。
デル社は現在、データストレージ、サーバー、そしてハイパーコンバージドインフラで世界最大手。デスクトップコンピュータとモニターの販売では北米最大手でもある。デルは、企業のITニーズをひとつ屋根の下でまとめて提供したいと考えている。
さらに魅力的なのが、先ごろリリースされたAPEXで、顧客の使用量に基づき、データとクラウド管理のサブスクリプションサービスを販売するというものだ。21年1月までの1年間で940億ドルの売り上げと130億ドルの営業キャッシュフローを計上しており、今後数年間でこの売り上げは世界の国内総生産(GDP)の2倍のペースで伸びると予想している。