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2022.02.25

顧みられない病を世界からなくす 日本の製薬会社と官民ファンドが10年で実現した功績

GHIT Fundエクスターナルアフェアーズ&コーポレートディベロップメント ヴァイスプレジデント井本大介、アステラス製薬 製薬技術本部製剤研究所長 小島宏行、アステラス製薬 コーポレート・アドボカシー サステナビリティ部 堂本郁也

世界で2億4,000万人が罹患し、年間20万人が死亡する住血吸虫症。標準治療薬には小児用製剤がなく、5,500万人もの乳幼児が苦しんでいる。だが、10年前に国際協業で始まった新製剤の開発が臨床試験を終えた。大役を担ったのはアステラス製薬と国際的な官民ファンド、GHIT Fundだ。


「熱帯性寄生虫症の就学前児童向け治療薬、アフリカでの試験で効果を確認」

──ロイター通信は昨年11月16日、こんなタイトルの速報を流した。住血吸虫症と呼ばれる寄生虫症の治療薬、プラジカンテルの小児用製剤が、臨床試験の最終段階である第3相試験(フェーズ3)を終え、有効性が実証されたのだ。

この新製剤の開発で主導的な役割を果たしてきたのは日本の製薬大手、アステラス製薬だ。同社製薬技術本部製剤研究所長(九州大学病院薬学研究院客員准教授)の小島宏行は次のように語る。

「当社が参画する小児用プラジカンテル・コンソーシアム(以下コンソーシアム)が発足したのが2012年。10年かかってフェーズ3の完了まで到達できたことには感慨深いものがあります。アフリカの子どもを対象とする国際的なプロジェクトの成功に、日本の製薬メーカーとして貢献できたことは大きな誇りです」

また、このコンソーシアムを強力に支援してきた国際的な官民ファンドも日本を本拠としている。外務省と厚生労働省、国内外の製薬大手、米ビル&メリンダ・ゲイツ財団(以下ゲイツ財団)など海外の支援組織が参加する公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金=GHIT Fundだ。創設された13年からコンソーシアムと連携し、プロジェクトに投資を行ってきた。

GHIT Fundのエクスターナルアフェアーズ&コーポレートディベロップメント部門でヴァイスプレジデントを務める井本大介は、「小児用プラジカンテルのフェーズ3の完了は当ファンドにとって最も大きな具体的成果のひとつ。マラリアや結核、『顧みられない熱帯病』に向けた治療薬やワクチン、診断薬の研究・開発に対する投資という我々のミッションがきちんと機能している実例であり、ファンドの将来にとってもありがたい成功です」と喜ぶ。

「『顧みられない熱帯病』に向けた治療薬などの研究・開発への投資というミッションが機能している」井本大介

「『顧みられない熱帯病』に向けた治療薬などの研究・開発への投資というミッションが機能している」井本大介


「顧みられない熱帯病」の代表格を世界11組織の協業で駆逐する


住血吸虫症──住血吸虫という寄生虫が皮膚から人体に侵入し、体内で成虫に育って産卵することにより免疫反応を引き起こす寄生虫症だ。臓器に慢性的な炎症が生じて命にかかわることも珍しくない。

日本も無縁ではない。この病の一種である日本住血吸虫症はかつて各地で発生し、国内で最後に撲滅宣言が出されたのは、2000年になってから。その日本が世界で最初に住血吸虫症を克服した国とされており、裏を返せば国外ではいまなお克服されていない病ということになる。

アステラスの小島によれば、世界では80近い国・地域で計約2億4,000万人が影響を受け、年間約20万人が亡くなっており、最も被害の大きな寄生虫疾患のひとつだ。特に状況が深刻なのはアフリカ、それもサハラ砂漠以南のサブサハラと呼ばれるアフリカ中南部で、世界の罹患者の9割をこの地域が占めるという。

住血吸虫症は、子どもが罹患した場合、発育不全や学習障害の要因ともなり、影響が大きい。標準治療薬であるプラジカンテルは、1970年代に開発されて以降、広く用いられているが、これは主に大人や就学期児童向けの話。後で紹介するような事情により子ども、特に就学前の幼児への適用は遅れてきた。その結果、住血吸虫症に苦しむ子どもは世界で5,500万人にも及ぶという。

こうした子どもたちに治療薬を届けようと2012年に誕生したのが小児用プラジカンテル・コンソーシアムだ。当初はアステラス、ドイツの製薬大手メルク、オランダの研究開発マネジメントNPOであるリガチャー、スイス・熱帯公衆衛生研究所の4者でスタートし、その後、ブラジル、ドイツ、イギリス、ケニア、コートジボワールの企業や研究所、大学などが加わって、現在は11の機関・団体から構成されている。

そのうち製薬メーカーはアステラスとメルク。開発にあたって2社にはいわば役割分担があり、かつてプラジカンテルを生み出したメルクは有効成分(原薬)、および臨床開発を、アステラスは乳幼児が服用しやすい製剤の開発をそれぞれ担当した。

プラジカンテルは大人と就学期児童向け医薬品としては住血吸虫症の標準治療薬の座を確立しているが、乳幼児への適用が遅れた理由は主にふたつある。ひとつは錠剤が大きく、苦味があるため乳幼児に服用させるのが難しいこと。もうひとつは乳幼児の安全性・有効性など臨床データがなかったことだ。

これまで乳幼児向けの薬が開発されてこなかったのには、前述のGHIT Fundの井本のコメントにあった「顧みられない熱帯病」という言葉が関係してくる。熱帯病の多くがまん延するのは主に開発途上国で、治療薬を販売しても十分な収益が期待できない可能性が高いため、製薬企業による開発が進まない──こうした実情から有効な治療薬の供給が滞るフィラリアやデング熱などが「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases=NTD)」と呼ばれる。住血吸虫症も代表的なNTDであり、小児用製剤の登場が遅れた大きな理由もその点にあった。

試作品第1号の頓挫からプロジェクトはどう立ち直ったか


さて、コンソーシアムによる小児用製剤の開発では当初、既存のプラジカンテル錠剤を用いて錠剤のサイズを直径2〜3㎜と大幅に小型化した「ミニタブ(小型錠剤)」形状とし、苦味を軽減するため表面にコーティングを施す戦略で始まった。だが、こうした生まれた初期の製剤は、臨床試験に向けての処方や製法などが確立される段階まで至った12年の秋、頓挫してしまう。アステラスの小島は振り返る。

「小児用プラジカンテルの対象年齢は生後3カ月から6歳までと幅広く、平均体重で10倍近くもの開きがある。現地では集会所などで集団投与が行われるケースが多いが、子どもひとりずつの体重を計測してそれに応じた数の錠剤を正確にカウントするといった作業は煩雑で現実的ではないし、小児にミニタブを多数服用させることは窒息のリスクを伴うという指摘が現地アフリカの臨床専門家から出て、製剤開発は振り出しに戻ってしまいました」

これを受けてコンソーシアム内で再度ゼロからの検討が行われ、新たな開発方針が打ち出された。その柱は「小児に安全に投与できること、水がなくても(乳幼児には少量の水で懸濁させたのち)服用できるよう、口の中で容易に崩れて溶ける錠剤」(小島)。

少量の水で製剤が崩壊することは、原薬が容易に溶け出して苦味を感じさせやすいことを意味する。崩れやすい口腔内崩壊錠で苦味を抑え、かつ、高温多湿の熱帯地域での保管でも分解させないためには高度な製剤技術が必要になる。開発のハードルは明らかに上がった。

まず、苦味対策。プラジカンテルの分子には、原子の結合の方向によって右回り(R体)と左回り(L体)という2種類の光学異性体がある。薬効を発揮するのはL体で、R体は薬効を発揮せずL体より強い苦味を感じさせる性質をもつ。だが、L体のみを安定的に生産する製造技術は当時まだ確立されておらず、コンソーシアムではその実現にメルクが中心となって取り組んだ。

一方、錠剤の形など製剤面での開発はアステラスが軸となって進められた。サイズや形、味、口の中での崩壊時間といった飲みやすさ、製造の容易性や安定性、輸送に耐えうる製剤の物理的強度など、満たさなければならない性能要件は数多く、「我々アステラスがもつ製剤技術のうち、使えるものはすべて使った」と小島は明かす。

「アフリカの子どもたちを思い、我々アステラスがもつ製剤技術のうち、使えるものはすべて使った」小島宏行

「アフリカの子どもたちを思い、我々アステラスがもつ製剤技術のうち、使えるものはすべて使った」小島宏行


同様の結果を出せる製法のなかで最も簡便なものを選択するといった、製造工程での配慮も不可欠だった。なぜなら、小児用プラジカンテルはいずれ、まん延国の現地企業が継続的に、かつ、適正なコストで持続的に生産できることが大前提だからだ。

厳しい要件を満たすための開発が集中的に続けられ、口腔内崩壊錠の新製剤の試作品がかたちとなったのは、最初のミニタブで挫折を味わってから1年ほど後の13年末のことだった。だが、開発プロセスの全体においては、これは通過点のひとつにすぎない。そこからアフリカでの臨床試験を始め、フェーズ1、フェーズ2、フェーズ3と段階的に進めていく、長いプロセスが待っているからだ。

上段の円形の錠剤が、コンソーシアムによって開発された小児用プラジカンテル製剤。下段の長円系の成人用製剤と比べると錠剤サイズが小さく、苦味が抑えられている、口腔内で溶けるといった違いがある。

上段の円形の錠剤が、コンソーシアムによって開発された小児用プラジカンテル製剤。下段の長円系の成人用製剤と比べると錠剤サイズが小さく、苦味が抑えられている、口腔内で溶けるといった違いがある。

臨床試験完了の原動力となったコンソーシアムメンバーの揺るがぬ思い


もちろん、コンソーシアムにおいては主務分掌が定められており、臨床試験はメルクおよび現地の研究機関などがリード役となって進められる。しかし、主に製剤分野を担当してきたアステラスの役割がこれで終わるわけではまったくない。臨床試験用の治験薬開発の状態をチェックし、そこからのフィードバックを得ての試作品の改良を最後まで続けていく。また、同社の別の専門チームが臨床試験プロトコール策定をサポートする。

さらに、同社はコンソーシアム内で製剤に加え広報や渉外といった業務でも中核を担ってきた。外部からの理解と協力、支援が不可欠な組織にとって、これは大きな役割だ。企業や研究所が国境を越えて手を携えるコンソーシアムによる医薬品開発というプロジェクトの実際とは、アステラス製薬コーポレート・アドボカシー サステナビリティ部 サスナテビリティマネジメントグループの堂本郁也によると次のようなものだ。

「原薬、製剤、アクセス&デリバリー、クリニカルなどいくつものチームに分かれていて、チームごとに11あるさまざまな組織から計数十人程度が参加しています。コンソーシアム全体の参加者総数は、これまでに延べ100人、200人という規模。アステラスだけでも10人以上のメンバーが、製剤開発だけではなく、臨床開発や広報、アクセス&デリバリーなど複数の業務に従事してきました」

コンソーシアムにおいて製剤開発のチームリーダーを務めた小島は、「それだけの大所帯ですから、時には行き違いや意見の不一致も起きる。穏やかではない議論になるときもありました。しかしながら、誰もさじを投げることはなく、みんなが前向きに取り組んだ。フェーズ3の完了という大きな達成までこぎ着けたのは、『プラジカンテルは効くんだ!コンソーシアムが開発する薬を子どもに届け、彼らを助けるんだ!』という揺るぎない思いがメンバーの全員に共通していたから」と振り返る。

今回ケニアとコートジボワールでのフェーズ3が終わった小児用プラジカンテルだが、あと数年で実際にサブサハラアフリカ各国に投入可能になることが期待される。まん延国で製品が使用可能になるには世界保健機関(WHO)や実際に錠剤が使われるまん延国での承認プロセスが必要だ。

「服用する際の小児の体重測定をどのように行うかという現場での議論から、財政負担についての各国や国際機関などの間での議論まで、まだハードルがある。こうした課題解決に向けて、コンソーシアムではまん延国での将来の製品大規模導入に向けた実施研究に現在取り組んでいるところだ」と堂本は語る。

小島は「実際にアフリカで子どもたちが服用できるようになる時点を頂上とすれば、8合目を越えたかな」と見ている。

「小児用製剤開発において『子どもは小さな大人ではない』という言葉がある通り、成人と小児では吸収・代謝が異なるため、同じ薬効が発揮されないことも珍しくなく、大人には有効な薬でも小児には有害ということもあります。プラジカンテルも1970年代に開発され乳幼児には適応外使用(非承認の状態で使用)されていたケースがあったとはいえ、6歳児未満の小児については安全性・有効性の正式な臨床データさえなかった。そこからスタートした新しい製剤の開発がここまで到達してみると、コンソーシアムに参加して本当によかったとつくづく思います」

堂本も、「当社が注力している開発途上国のATH(アクセス・トゥ・ヘルス)の研究開発分野の取り組みで、初めて参加した大規模な国際プロジェクトが大きな成果を上げたことは、今後の展開にも非常に大きな意味があります」と語る。

「サスナテビリティマネジメントグループの初参加の大規模プロジェクトが成果を上げたことは、今後の展開にも大きな意味がある」堂本郁也

「サスナテビリティマネジメントグループの初参加の大規模プロジェクトが成果を上げたことは、今後の展開にも大きな意味がある」堂本郁也

「8合目」までたどり着けたのはGHIT Fundという伴走者があってこそ


小児用プラジカンテルの開発を語る際には、コンソーシアムへの支援を続けてきたGHIT Fundの存在も忘れることができない。1期5年間で運営される同ファンドの第1期がスタートした2012年には早くも小児用プラジカンテルの臨床試験を対象とした投資を実施。以後、第2期も含め14年、16年、18年、20年と計5回にわたって投資を継続させており、合計額は18億5,000万円に及ぶ。

ゲイツ財団や国連開発計画(UNDP)も参画するGHIT Fundのミッションは「低中所得国にまん延する感染症の制圧を目指して、日本の医療技術、イノベーション、知見を生かした医薬品開発を促進」すること。コンソーシアムはこのミッションに事に適合した投資対象であり、それだけにプロジェクトが10年をかけてフェーズ3の完了に至るまでに果たした役割もまた非常に大きい。

アステラスの堂本は、「臨床試験を実施していると当初予想していなかった事態が起きてしまうのですが、GHIT Fundはどんなときも紳士的、建設的に相談に乗ってくださいました。COVID-19の影響でフェーズ3の運営に遅れが生じた際も、試験期間の延長に応じて追加投資を受けられ、そのおかげで無事、臨床試験を完遂できました」と感謝。

同社の小島も、「グローバルヘルスの領域は、商業的な観点でいえば、製薬企業が前のめりに参画しにくい領域。しかしながら、GHIT Fundによる支援は製薬企業が積極的にこの分野に取り組める大きな後押しになっています」と、まず財政面での支援に謝意を表したうえで、さらにほかの面でのサポートも高く評価する。

「GHIT Fundがもつ、さまざまなステークホルダーとのネットワークには非常に大きな価値がある。私たちだけでは探しきれなかった世界中のパートナーを仲介してもらえたことで、グローバルヘルスの課題解決に向けたオープンイノベーションにもつながっています」

実はGHIT Fundの構成メンバーのうち国内外の製薬大手16社にはアステラスも含まれている。だが、そのアステラスが参画するコンソーシアムへの投資は、このような背景とはまったく関係なく判断されたものだ。すでに触れた通り同ファンドには海外機関も多く参加しており、前出のヴァイスプレジデント、井本によると、その運営では「公平性と透明性の高いガバナンス体制が確立されており、投資案件はあくまでサイエンス、インパクト、マネジメントの観点で評価・選定される」。

それを知ると、小児用プラジカンテル開発へのアステラスとGHIT Fundの貢献はいっそう、その輝きを増す。

GHIT Fund 特設ページ
https://forbesjapan.com/feat/ghitfund/


GHIT Fundとは
GHIT Fund(公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金)は、2013年に創設された国際的な官民ファンド。日本の外務省・厚生労働省や国内外の製薬企業16社に加えて、米ビル&メリンダ・ゲイツ財団、国連開発計画(UNDP)、英ウェルカム・トラストが参画している。5年を一期として運営され、22年度は第2期の最終年度となる。製薬分野以外の企業も参加。開発途上国の保健向上を目指して日本がもつ技術や知見を生かしたグローバルな医薬品の研究開発を、投資のみならずビジネスマッチングなどの面からも連携支援を行う。本部・東京。


小島宏行◎アステラス製薬 製薬技術本部製剤研究所長(九州大学病院 薬学研究院 客員准教授兼任)、博士(薬学)。2001年のアステラス入社後、3度の海外駐在経験を有する。

堂本郁也◎アステラス製薬 コーポレート・アドボカシー サステナビリティ部。入社後6年半は新薬の臨床開発に携わり、現在は複数のAccess to Healthプロジェクトの立ち上げ・運営に従事。

井本大介◎グローバルヘルス技術振興基金 エクスターナルアフェアーズ&コーポレートディベロップメント ヴァイスプレジデント。現職就任以前は、非営利組織DNDi(在ジュネーブ)日本事務局代表。

Promoted by GHIT Fund | text by Hiroyuki Okada | photographs by Kenta Yoshizawa

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