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2022.02.07

新型コロナワクチンの舞台裏。忘れられた、本当の「英雄」

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トーマス・マデンはファイザー・ビオンテック製ワクチンのドラッグデリバリーシステムの開発に携わっており、4種類の脂質のうち2種類で改良版を使用したと語る。マデンは、オンパットロもファイザー・ビオンテックのワクチンも、自身のチームによって改良された脂質がなければFDAの承認を得ることはできなかったと話す。

ただ、マクラクランは、脂質の新しいバリエーションを「(既存のものを改良しただけの)反復的なイノベーションだ」と取り合わない。

ビオンテックはコメントを差し控えるとしているが、モデルナやファイザーは、過去はともかく新型コロナワクチンを含む最近の新しい製品では、改良を加えた新しい技術に移行していると主張する。

ジェネバントは、苦しい闘いを強いられことになるかもしれない。5月にバイデン政権が新型コロナワクチンの知的財産権を放棄する考えを支持したのだ。皮肉にも、この動きはモデルナやビオンテック、ファイザーにとって、打撃ではなく利益になるかもしれない。彼らがワクチン収益から得た大金の取り分を、ジェネバントが主張できなくなるからだ。

だが、この100年で最も重要かもしれない医学の進歩に自分が果たした役割を、バイオテック業界によってなかったも同然にされたイアン・マクラクランは、それでも構わないと考えている。


イアン・マクラクラン◎カナダの生化学者。1996年、バイオテック会社アイネックスに入社。その後、同社からスピンアウトしたプロティバ、テクミラを率いた。mRNA等を細胞内部に届けるドラッグデリバリーシステムの開発に成功。確立した技術はすべて特許も取得したが、ライセンスをめぐる紛争に疲れ、2014年に引退した。

トーマス・マデン◎マクラクランのアイネックス時代の同僚でライバル的存在。ロンドン生まれ。アイネックスの曲折の後、ドラッグデリバリーシステム事業を受け継いで2009年にアキュイタスを創業、CEOとなった。会社は小さいがファイザーとビオンテックによるmRNAワクチンにドラッグデリバリーシステムを提供するインパクトのある存在。

ステファン・バンセル◎モデルナのCEO。フランスの体外診断薬メーカー、ビオメリューのCEOを経て2011年に現職。mRNA技術を用いた医薬品開発を進めるため、早くからドラッグデリバリーシステムに興味をもち、マクラクランとは2013年に接触、共同開発について提示された1億ドルは高すぎると、マデンのアキュイタスと手を組んだ。

アルバート・ブーラ◎ファイザーのCEO。ギリシャのアリストテレス大学で獣医学博士号を取得し、1993年にファイザーでのキャリアをスタート。2019年にCEOとなった。ビオンテックと開発した新型コロナワクチンのドラッグデリバリーシステムでは開発にトーマス・マデンがかかわっており、使用された脂質は独自のものだと主張する。

文=ネイサン・ヴァルディ 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.088 2021年12月号(2021/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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