内村航平の「ゾーン」覚醒。その要因と素直に受け入れられた限界

photo by Kansas City Star / Getty images


「ちょっとしんどすぎたといいますか、このままだと先が見えないと感じました。全身が痛いこともありますけど、日本代表選手として“世界一の練習”が積めなくなった自分に対して、心の中であきらめがあったというか、メンタル的な部分でモチベーションを上げていくのが非常に難しかった。すんなりと『もう無理だ』と思いました」
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トータルで1時間を超えた引退会見をあらためて振り返れば、誰も真似できないほどの量と質を伴っていた練習が、内村のルーティンとなっていた跡が伝わってくる。

会見時の内村

スポーツは、同じ行動を取り続ける過程で思考回路から不安やストレスといった感情が排除され、ベストのパフォーマンスを発揮する上で理想的な状態が生まれるとされる。世界一の練習に加え、体操史上最高の選手と呼ばれるほど、内村は突出した才能を持っていた。しかし、才能だけでは“ゾーン”は導けなかったと、内村は経験を持って伝えてくれた。
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勝利への道筋の役割を果たしたのはルーティンだったが、ならばアスリートではない一般人も経験できる領域なのだろうか。内村をして「世界一」と言わしめた練習はもちろん真似できないが、それでも自分なりのルーティンは身近なところに見つけられる。例えば元メジャーリーガーのイチローは、シアトル・マリナーズ時代のルーティンのひとつとして、毎朝必ずカレーを食べていたことはよく知られた話だ。

まだまだ語れたのだろう。話を引退会見に戻せば、どんどん弾もうとしていた言葉を自ら封印するように、内村は苦笑しながらこんな断りを入れている。

「“ゾーン”の話をしていくと、たぶん3日ぐらい寝ずに続けちゃうと思うので、ここでやめておきます」

オリンピックの記録や記憶を超越する輝きを今でも放っているからこそ、内村は2011年10月14日を真っ先にあげた。そして、心技体が最高潮の状態で得た貴重な体験は、競技者ではなく演技者として、体操の楽しみを伝えていく第一歩につながっていく。

体操選手では異例となる引退試合「KOHEI UCHIMURA THE FINAL」を、内村は来たる3月12日に開催するべく準備と練習を重ねている。エキシビションマッチの会場となる東京体育館は、11年前に一世一代の完璧な演技を披露した場所だった。

文=藤江直人

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