一つの「ヌー.トーキョー」の象徴となる料理を挙げるなら、人参の一皿だろう。
人参をよく洗い、まるのまま塩漬けし、香辛料と共に火を入れ、燻製にかける。いわゆるソーセージを作るのと同じような工程だ。だから、人参なのに、ソーセージの味がする。さらに、ソテーしたり揚げたりピューレにした人参を添えて、一皿を構成している。
これにはフードロスをなくす意味合いが込められているのはもちろん、もう一つ、食材の持つ環境と味を生かした「無理のない料理」というテーマも込められている。つまり、不必要な手を加えずに、何を食べたかがはっきりわかる料理にするということで、それが、ゲストと生産者の距離を縮め、双方がつながりやすくなるということだ。
なるほど、はっきりと人参とわかる料理を食べれば、どんな生産者が作ったのだろうと、思いを馳せやすい。そんなところにも中塚氏は「繋ぐ」仕掛けを潜ませているのだ。
レストランというプラットフォーム
「正直、紀尾井町という都心では、エコといってもできることは限られています。ですから、オールサステナブルという大きな目標に対しても、自分たちに合ったスタイルで、無理をせず、できることから一つずつトライしていきたい。一つ星はいただきましたが、レストランとしてはまだまだ。とはいえ、星のためにカチカチの店にする気もないですし、今の雰囲気を保ちながらレベルを上げていきたいと考えています」と中塚氏は言う。
シェフ、サービス、経営、人事と一人何役もこなさなければならず、すっかり忙しくなった今も、極力生産者のもとへ足を運ぶようにしているという。先週も、器を依頼している陶芸家のもとに出向き、相談しながら発注したばかりだという。実にアクティブだ。
昨今、意識の高いレストランも増えているが、コンセプトそのものがサステナブルであるということは、まだまだ新しい。食を楽しむ場でありながら、食材、文化、技術など、多くのことを繋げていくことができるプラットフォームの役割を持つこうしたレストランが増えてくれば、食の未来は明るい。中塚氏の言葉には、そう思わせてくれる力がある。
連載:シェフが繋ぐ食の未来
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