社員への激しい愛情
逆に、筆者が最も驚いた会社は樹研工業(愛知県豊橋市)です。残念ながら同社松浦元男会長(創業者)にお目にかかったことはなく、書籍で知ったものですが、同社は社員への思いが尋常ではありません。多くのエピソードがありますが、一つだけ挙げますと、癌に侵され闘病生活を送った社員に、3年半もの入院の間、給料・ボーナスが満額支給されています。
その他の泣かせる話は、松浦元男氏『百万分の一の歯車!』(中経出版)、『先着順採用、会議自由参加で「世界一の小企業」をつくった』 (講談社+α文庫)、坂本光司氏『日本でいちばん大切にしたい会社2』(あさ出版)をご参照ください。
村上春樹は、スタンフォード大学に招かれ講師をしていた時期があります。同校では、週に一回一時間、「オフィス・アワー」というのがあり、週のうちのある決められた時間には、誰でも先生の研究室のドアをノックして、生徒と先生という枠を離れて、なんでも自由に話をすることができるのだそうです。学業のことでもいいし、世間話をしても良いという、気軽で自由な時間です。
オフィス・アワーにきた生徒・社員に対して、「僕は・君たちが・好きだ。」とは恥ずかしくてとても言えないでしょうが、そんな会社はきっと一体感があって強い企業だろうと思います。
利益が大前提
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そして、もう一つの真理。樹研工業が上記のようなことができるのは、もちろん優れた思想によるものですが、そもそもの前提として利益が出ているからです。社員を思う気持ちがあっても赤字では叶わぬことでしょう。
今回の感染症で休業や規模縮小を余儀なくされて、どの経営者も「心配するな、社員の生活を守る」と言いたいでしょうが、それを可能にするだけの利益の蓄積があるかどうか。
やはり、企業は利益を出さなくてはいけないと改めて感じます。これは経営者だけでなく社員の責任でもあり、社員のためでもあるのです。
村田朋博◎東京大学工学部精密機械工学科卒。フロンティア・マネジメントには2009年入社、マネージング・ディレクターに就任し、2018年に執行役員に就任。山一電機株式会社社外取締役。大和証券、大和総研、モルガン・スタンレー証券での20年間のアナリスト経験を有し、2001年第14回日経アナリストランキング 電子部品部門1位。著書に『電子部品だけがなぜ強い』『経営危機には給料を増やす!』 (日本経済新聞出版社)など。
(※本稿は、フロンティア・マネジメント運営の経営情報サイトFrontier Eyes Onlineからの転載である)