ビジネス

2022.01.27

日本はMMTの成功例なのか?

伊藤隆敏の格物致知

新型コロナの世界的まん延が始まってから、2年が経過した。コロナに対して、先進国の対処は迅速かつ大規模だった。先進国の中央銀行は、金利をほぼゼロの下限に維持、さらに資産買い入れ、いわゆる量的緩和(QE)を拡大させた。財政支出も拡大されたが、これは国債の発行増で賄われ、政府債務が急増した。

新型コロナまん延を食い止めるためのPCR検査、ワクチン関連、医療現場への補助の予算が拡大した。さらに、新型コロナまん延防止のための社会経済活動制限により需要が減った、観光業、飲食業、航空業などへの補助、事業継続のための補助金、失業手当の期間延長、国民(ほぼ)全員への現金給付、などが行われた。

その結果、先進国全体の公的債務(主に国債)は急増した。公的債務・GDP比率は、日本が群を抜いて高く、2021年には240%を超えている。G7のなかで日本の次に公的債務が大きいのはイタリアで、180%超。英仏米加は120〜155%のレンジに入っている。ドイツだけが、100%を下回っている。

新型コロナ対策としての公的債務の拡大は適切だとしても、すでに経済が回復過程にあり、インフレ率も上昇し始めているなかで、不況対策としての財政刺激は徐々に縮小すべきだ、という意見も強い。一方、このような財政破綻の可能性は杞憂(きゆう)だという意見をもつ人たち(学者・政治家)もいる。

国債が自国通貨建てで発行できる先進国では、債務不履行はありえないので、いくらでも国債を発行することができると主張する、MMT(Modern Monetary Theory、現代貨幣理論)信奉者だ。

自国通貨建て国債をいくら発行しても、債務不履行にはならない、というMMTの主張は正しい。しかし、債務不履行にはならなくても、経済には大きな打撃になるシナリオはある。

将来、国債の償還可能性に少しでも疑問が生じると国債の買い手がいなくなる。買い手を引き留めるには、国債金利を引き上げるか、財政収支を黒字化しなくてはならない。国債金利の急騰は、国債を保有する金融機関に巨額の評価損をもたらし銀行危機に発展する。財政緊縮は、将来世代に増税を課すことになる。

金利高騰も、増税も避けるには、中央銀行が無制限に国債を買い取るしかない。自国通貨建て国債の場合これが可能だが、それはハイパーインフレにつながり、経済活動に大きな混乱を招く。
次ページ > 国債発行は将来の勤労世代から現世代への所得移転である

文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.091 2022年月3号(2022/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

伊藤隆敏の格物致知

ForbesBrandVoice

人気記事