ライフスタイル

2022.02.03 10:00

吸う・吸わない人々がともに行きたくなる場所へ 喫煙所ブランド「THE TOBACCO」の挑戦

嫌煙ムードが高まるなか、万全な空調設備と居心地のよさを併せもつ喫煙所ブランド「THE TOBACCO」は、喫煙というカルチャーを尊重しつつ、喫煙者と非喫煙者の幸せな共存を目指す。同社代表取締役CEO 山下悟郎が考える理想の未来とは?


暗く、汚く、煙たい、たとえ喫煙者であっても居心地が悪いイメージが、喫煙所にはあるのではないだろうか。その一方で、タバコは往年の名作映画に欠かせない存在であり、音楽やアートにも関わりが深い文化的な側面もある。そこで喫煙者と非喫煙者が共存できる世界を目指して立ち上がったのが、コソド代表取締役CEO 山下悟郎(以下、山下)である。

30代の終わり、社会貢献のために自分ができることを考えた



「THE TOBACCO KANDA」

大学生から企業に就職することなく、卒業とともに2007年、映像制作会社モバーシャルを起業。モバイルCMのマーケティングを行う傍ら、犬種特化型オンラインメディア『French Bulldog Life』を運営するrakanuの立ち上げ、宣伝会議/デジタルハリウッド/バンタンデザイン研究所などで講義も受け持つなど、山下は華々しい道のりを歩いてきた。そんな彼が30代の終わりを迎え、やりたいことをやるためにたったひとりで設立したのがコソドである。

「自分だからこそできる、社会貢献型のビジネスを探し求めていました。私は喫煙者なのですが、喫煙所やオフィスなどで、“改正健康増進法で吸う場所が無い”、“タバコの煙が嫌いで困っている”などのタバコにまつわる声をよく聞いていることに気づいたのです。調べてみると、喫煙所と喫煙利用者の、需給のバランスが全然合っていない。喫煙所が少なければ路上喫煙が増え、ポイ捨てもまた増えていく。これこそまさに社会課題だと感じました」

自身が喫煙者であり、ユーザーの気持ちがよくわかること、市場としてシュリンクしていることで企業が手を着けにくい領域であることもまた、山下の気持ちを後押しした。そうして彼は、「みんなの好きを認め合える社会を作る」という社是とともにコソドを設立、喫煙者・非喫煙者の共存というテーマに絞り、民間の喫煙所事業「THE TOBACCO」を展開し始めたのである。

喫煙者の数少ない“否定されない”場所に


「まずはマネタイズを後回しにし、社会課題を解決することを優先しました。自分がやるなら、これまでの“そこしかないから仕方がなく入る”暗く、汚く、煙たい場所では無い、“明るく清潔で、煙たさのない”、さらにいえば喫煙者だけでなく非喫煙者も入ってみたくなる場所にしたかった。そして、肩身の狭い喫煙者の数少ない“否定されない”趣のある場所にしたかったのです。

タバコは表現の手段として、さまざまなカルチャーに用いられてきました。なくなったら世界はひとつつまらなくなる。タバコに内包する情緒を『THE TOBACCO』に落とし込もうと考えました」


Quitting smoking is very easy, I’ve done it hundreds of times. Mark Twain

神田、秋葉原の地からはじまったそんな「THE TOBACCO」各店舗の壁面には『トム・ソーヤの冒険』で知られる文豪マーク・トゥエインの「煙草をやめるなんてとても簡単なことだ。私は百回以上も禁煙している」というユーモアあふれる名言が書かれている。

「店舗を借り、喫煙所を民間の力でつくる。機能的には区の指定喫煙所の条件も満たす。有人店舗とすることで、人が多いときには換気を強くするなど排煙効率を高め、密状態の回避も実現しています。何よりも吸っていて居心地のいい空間を目指しました」

しかし喫煙者の動向に関してのデータはほとんど無い状態。開店前は街でたくさんの人に声をかけて話を聞き、THE TOBACCOの方向性を決めていったという。

「開店してからは有人店舗なので、直接利用者の声を聞くことが可能になり、そのデータをもとに日々改善を心がけています。こうした喫煙者のフィードバックを取れる場所は、ほかにはほぼ無いと思います」

行政による補助金も活用し、コーヒースタンドの併設やデジタルサイネージの設置による広告媒体化などで、「THE TOBACCO」を中心にした収益構造の実証実験はすでに開始しているという。

「ただ喫煙所なため、ひとつの場所のみだと訪れる人数自体が限られており、広告価値を出すにはまだまだ難しい面があります。それでも複数のオフィスビル内喫煙所をネットワークで結び、サイネージを設置する場合には視聴ボリュームがでます。また入居している企業をターゲティングできるという面白い特徴もあるので、高い媒体価値が出るのではないかと考えています。

さらにAIカメラを設置することで、人流も把握できますし、視聴率も把握できます。現時点では40〜50代の決済責任者が、通り過ぎるのでは無く喫煙とともに5分程度、しっかりサイネージを見ているというデータも出ています。まだこれからのサービスですが、すでに企業からの打診は増えてきています」
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text by Ryoichi Shimizu photographs by Masahiro Miki edit by Yasumasa Akashi

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