2020年の前半、ニューヨーク州の知事が高く評価されたのは(あれほどの死者が出たにもかかわらず)、情感があったからでしょう。日々伝えられる死者の数は単なる数字に還元され、麻痺していきます。しかし、身近な人にはただ一つの死でしかありません。「無名って恐ろしいわね(中略)ただ115人戦死というだけ」(『気狂いピエロ』、ジャン=リュック・ゴダール監督)。
評価されるべき、認識されない指導者
武漢で最初の患者が出たときに、その患者を完全に隔離し、野生動物を食料とすることを禁じた指導者がいたとすれば、数十万人の命を救った英雄ということになります。しかし、この場合は、そもそもウイルス問題を世界が認識することなく、彼・彼女もその存在すら認識されません。
大きな問題を(問題が起きた後に)解決した人はもちろん評価されるべきですが、危険を未然に防ぎ(もしくは初期に解決し)、大きな問題にさせない指導者こそ偉大であり、我々はそのような評価眼を持たなくてはいけないと感じます。
ちなみに、アメリカのオバマ前大統領は2014年12月2日の演説で、「感染症の脅威は過去のものではない。今後も十分起こりうる。感染症に対応できるインフラを構築する必要がある。素早く認識し、素早く隔離し、素早く対応する仕組みだ。これは民主党共和党を超えた国家の問題である、国民の命にかかわる問題である。米国がこの問題にどのように対処できるのか率先して世界に示すべきだ」と述べていますが、残念ながら誰も脅威とは思わず、そして大統領も実行できませんでした。
そもそも何が起きても生き残るようにするにはどうしたら良いのか。その企業がなくなったら困る企業であるしかない、代替できない企業であるしかないということになりますが、これは今後の連載で考えていきたいと思います。
村田朋博◎東京大学工学部精密機械工学科卒。フロンティア・マネジメントには2009年入社、マネージング・ディレクターに就任し、2018年に執行役員に就任。山一電機社外取締役。大和証券、大和総研、モルガン・スタンレー証券での20年間のアナリスト経験を有し、2001年第14回日経アナリストランキング電子部品部門1位。著書に『電子部品だけがなぜ強い』『経営危機には給料を増やす!』(日本経済新聞出版社)など。
(※本稿は、フロンティア・マネジメント運営の経営情報サイトFrontier Eyes Onlineからの転載である)