ビジネス

2022.04.13

「社内70%が賛成してから、顧客が欲してからではもう遅い」という真実

村上春樹に学ぶ経営の真実


同じロードマップを描いても……


一方、営業利益率を継続的に計上し、優れた企業として著名な企業に教えていただいた言葉で印象的であったのは、「皆が共有している『線形の』技術ロードマップでは差異化はできない」というものでした。

なるほどと私は膝を打ちました。多くの業界においては、業界全体で方向性が共有された技術ロードマップがあります。その産業に属している企業のすべてが同じ目標に向かって産業として努力します。これは、消費者からみれば効率的なシステムといえますし、業界全体が認知している技術開発ロードマップにのっとり黙々と技術開発に取り組むのは、修行僧のような美しさもあります。職人の世界といっても良いでしょう。

しかし、「共有されている」すなわち「線形な」技術開発では差異化は容易ではないことになります。同一の土俵での限定的差異化競争になってしまい、おそらく最終的には価格競争になってしまうということです。

顧客が欲してからでは遅い


そもそも、顧客(消費者)でさえ、自分が何を欲しているのかはわからないのです。かのウォークマンだって、量販店、メディア、社内での評価は低く、当初、月間販売台数は5000台に満たなかったとか。IBM初代社長トーマス・ワトソンが「コンピュータの需要は世界で5台」と言ったとされていることに関しては「史実ではない」との指摘もありますが、とはいえ、100兆円産業になるとは夢にも思わなかったことでしょう。

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イタリア・ミラノ現地本社にあるIBMのロゴ(Photo by Emanuele Cremaschi/Getty Images)

筆者が尊敬する複数の経営者は言っていました。「顧客の話を聞きに行け、でも聞くな」と。顧客が欲しいというようなものはもう遅い。顧客は同業他社にも同じことを言っているはずで、それではたいした利益は得られない。顧客の話を聞くことで、顧客が気付いていない需要を感じるセンスが重要である、という教えでした。

稀代の新「製品」開発者秋元康氏も企画会議では上記大原氏と全く同じ方針であることをインタニューで述べており(十人のうち一人が賛成するぐらいが良い)、また、著作の中では「予定調和を壊す。人は予想が裏切られたときに面白いと思う」「嫌われる勇気。わがままに生きる勇気。皆がおもしろいとおもう企画ほどつまらないものはない」と述べています(『秋元康の仕事学』、NHK出版)。

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村田朋博◎東京大学工学部精密機械工学科卒。フロンティア・マネジメントには2009年入社、マネージング・ディレクターに就任し、2018年に執行役員に就任。山一電機社外取締役。大和証券、大和総研、モルガン・スタンレー証券での20年間のアナリスト経験を有し、2001年第14回日経アナリストランキング 電子部品部門1位。著書に『電子部品だけがなぜ強い』『経営危機には給料を増やす!』(日本経済新聞出版社)など。

(※本稿は、フロンティア・マネジメント運営の経営情報サイトFrontier Eyes Onlineからの転載である)

文=村田朋博

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