朝比奈:おっしゃるとおり、ソフト面はとても大事だと思います。ワーケーションに即して言えば、私は、これからのワーケーション2.0がとても大事だと考えています。ワーケーションは、元々は、政府としては、東京オリンピック・パラリンピックで予想される都市の混雑回避みたいな理由ではじめた感がありますし、その後のコロナで密を回避するという理由も「消極的」です。
つまり、これまでは、都会や密から「逃避する」「逃げる」という意味でのワーケーションでした。これをワーケーション1.0と定義すると、これからのワーケーション2.0は、人との関わり、より具体的には、地域に暮らす人たちと関わりつつ、更に自らの人生を豊かにする、という含意が必要だと思います。象徴的に言うならば、ワーケーション1.0は、workation of freedom(~から逃れる自由)であり、ワーケーション2.0はworkation of liberty(~に関与する自由)ということになります。
鈴木:まさに消極的ワーケーションから、積極的ワーケーションへの変容ですね。私がワーケーションを中心的に推進している拠点である軽井沢には、明治時代から政財界の人たちが万平ホテルや三笠ホテル(現 旧三笠ホテル)に集まり、自然な形で様々な意見交換をしていました。それがサロン文化と言われ、軽井沢鹿鳴館とも言われていました。
さらに大正・昭和時代になり、別荘で多種多様な人々が交流するという別荘文化に進化してきた歴史的経緯が有ります。軽井沢は単なる避暑地への集住ではなく、様々な経歴を持った方々が交流し地域への関わり合いを大事にする一つの文化を醸成しています。いわば、人が人を呼ぶような形になっていて、常に新しい価値が創造されている場所です。その意味で軽井沢では歴史的に、workation of liberty(~に関与する自由)を実践してきたと言えるでしょう。
朝比奈:軽井沢には、もちろん、風光明媚な場所、自然、美味しい空気などの地域資源があるわけですが、それだけで言えば、例えば先ほど首都機能の移転先で挙げた那須塩原にはかないません。スキー場も、温泉も、牧場も、那須塩原の方が質も量も上です。軽井沢が圧倒的なブランド力を持てたのは、良質な人が集まるコミュニティとそのイメージでしょう。
そういう意味では、これからの地方創生には、単に「消滅可能性都市」の衝撃から逃れるという、地方創生1.0(消極的地方創生)から、より、地域の人々のつながりを強化して暮らしや人生に彩りを加えるという地方創生2.0(積極的地方創生)が大事かもしれません。
人と人との交わりを活性化させるには、色々な「触媒」が大事ですね。一緒に地域課題に取り組む、一緒に仕事をする、一緒に趣味を楽しむ、など。ハード面では分散的に暮らしつつ、ソフト面では人間同士は密に繋がる、という姿が大事ですかね。