朝比奈:私も実は、鈴木さんと同じように、新しい資本主義の突破口の一つは、地域を意識した国づくりにあると考えています。資本主義的思考様式の一つの大前提は、効率や合理の尊重です。その観点からこれまで、都市への集積というものがとても大事にされてきました。
いわゆる都市経済学においては、理想的な人口規模については議論がありますが、少なく見積もっても、7~800万人くらいまでは、人口集積した方が、効率的になるし合理的であると考えるのが普通です。東京をはじめ、大都会は、地方の人たちを文字通り「吸い込み」続けてきましたし、ある時期までは、それが当たり前で「是」とされていました。
そこまで大規模ではなくとも、例えば、少し前に流行った様々な都市機能を中心部に集約してインフラ維持コストなどを下げようというコンパクトシティという考え方も、この人口集積の合理性を前提としています。
右が朝比奈一郎氏、左が筆者(西麻布の「エネコ東京」のウェルカムテラスにて)
鈴木:しかし、コロナが状況を一変させた感じがありますね。「密」は良くない、と。コンパクトシティという言葉、そういえば、急に聞かなくなりました。
朝比奈:経済合理性だけを考えると、人口の集中や都市機能の集積は極めて効率的ということになるのですが、パンデミックなどを考えると、とたんにそれはリスクになる。実は、約11年前の東日本大震災の際も「とてつもない被害を出した。次に首都直下型地震が来たら更に大変だ」と肝を冷やしたわけで、要は災害や感染症のリスクを考えると、資本主義的思考様式からの集積重視は、実は極めて危ないわけです。
また、合理的・効率的というのは、実は明るいことではありません。敬愛する知人の安宅和人慶大教授は、主著の『シン・ニホン』の中で、開疎(open and sparse)の重要性を説き、ディストピア的な都市の未来への代替案(オルタナティブ)として、「風の谷」の可能性を提唱していますが、超効率的な暗い都市よりは、確かに、資本主義の未来は風の谷であってほしいと思います。
鈴木:経済合理的、資本主義的には正しくとも、今の都会のあり方は色々な意味でサステナブルではないと思います。
朝比奈:まさに、その通りでして、流行のSDGs的な考えに則って言えば、持続可能性というものを資本主義に取り入れていかなければならないことになります。新しい資本主義、と言うからには、私は、上記のような分配か成長か、とか、マーケットか国家か、という言い古された軸ではなく、持続可能性とか長期目線といった概念を入れていく方が良いと感じています。
SDGsという言葉で表現すると欧米からの「借り物」感が強いですが、例えば、長寿企業が多く、単純な合理とは真逆の西田哲学や、優勝劣敗という合理を否定した今西自然学を生み出した日本という風景にも、実は馴染む気がします。